今日は水平線がはっきりとわかります。
空が暗くて海があかるくて。
空が暗いのは、あそこからあそこまで
雨が降っているからなのでは。
それもそうとうな大雨なのでは。
しかもこっちに来るのでは。
いつもの海産物干し場の横で、小走りになります。
干し場のみなさんもせわしげに魚介を取り込んでいます。
串を打ってぴんとまっすぐになった真っ白いスルメイカが
ずらずらずらずら道沿いに吊り下げられています。
小さいワイシャツの行列のようです。
今日は水平線がはっきりとわかります。
空が暗くて海があかるくて。
空が暗いのは、あそこからあそこまで
雨が降っているからなのでは。
それもそうとうな大雨なのでは。
しかもこっちに来るのでは。
いつもの海産物干し場の横で、小走りになります。
干し場のみなさんもせわしげに魚介を取り込んでいます。
串を打ってぴんとまっすぐになった真っ白いスルメイカが
ずらずらずらずら道沿いに吊り下げられています。
小さいワイシャツの行列のようです。
海沿いの道のところどころに
県外ナンバーの車がとまっています。
水平線を見に来たのか。
日射しが暑いくらいの日和なのですが、
あいにく白く光る雲が空を覆い、
白く光る海とのさかいめは茫漠としています。
水平線はあのあたり──
指差した線よりだいぶ上を船が通ります。
‥‥まちがえた。
自分の居る高さによって違うので、
いつも見ていても水平線の位置を当てるのは意外と難しい。
連休ですが、月曜なのでたくさんの漁船が出て働いています。
かたまっているところに、お目当ての獲物がいるのでしょう。
黒い船団が、銀色の空を漂うようです。
ベランダの上から下へ垂直に、
トビが腹を見せて舞い降ります。
そのまま地面より下まで飛び、
川面で折り返して垂直に、
背を見せて舞い上がる。
紙ヒコーキみたい。
再びベランダに接近します。
これが食べたいのかな。
小さなざるに広げたシラス干し。
いいにおいがします。
朝どれ釜揚げちりめんが余ったので、
ベランダで干していたのです。
でも、猛禽の嘴でシラスは食べられまい。
第一、こんなに人に近くても野生は野生、
餌をあげるわけにはいかないのです。
昔、祖父が庭でトビを放し飼いにしていました。
ピーピー、ピーヒョロ鳴くから名前はピーちゃん。
餌は豚のバラ肉で、全力疾走で食べに来ました。
飛べないのです。ヒナの時、巣から落ちて。
豚バラ肉は御馳走だけど、
君はそんなもの食べなくていい。
シラスをあきらめた若いトビは、
川の上に飛んで来た銀色に光る物をキャッチして、
もちろん空飛ぶ魚なんていないのでリリースして、
そのまま舞い上がって行きました。
風の強い日なのです。
川岸のススキの綿毛が時折雪のように
きらきら光りながら飛んでゆきます。
十月にはじまったTVドラマで
ヒロインが語る「野望」のひとつが
──水平線を見たい
島に囲まれた島の高校生なのです。
たまたま通りがかりにその台詞を聞いた連れが、
「このへんなら逆に」
──島を見たい
たしかに。
このあたりの海岸から見えるのは
山の他は海と空の水平線ばかりで、
いけどもいけども島影一つありません。
電車に乗ると、周りの乗客が
「わあ、地球が丸い!」と叫んでいるほどです。
前回、大学生になって島を出たヒロインが
旅先で水平線を見ながら
「はしからはしまで水平線っていうのが見たい」
と、少し野望を大きくしていました。
たまたま通りがかりにその台詞を聞いた連れは、
そのまま通り過ぎて行きました。
日曜の朝、いつも自転車で川沿いや海岸沿いを
走って来る連れの帰りが少し遅くなりました。
隣村の台地へ行ったのだそうです。
台地?登ったんですか?自転車で。
「登りきれなかった。途中で降りて来た」
自分の脚の力だけではなかなか辿り着けないでしょう、
てっぺんまでは
‥‥。
もしかして、見たかったのですか。
はしからはしまでの水平線が。
ベランダから見下ろすと
センダンの葉が落ちて金色の実がずっしりとみのり
小さな川の水は澄み対岸の駐車場はがらんとして
ぽつんとまっさらな
──お墓が
蒼天から降りて来たように忽然と
秋風にみがかれたようにしらじらと
‥‥会社の駐車場に墓石?
何事かというと。
毎年十一月中旬の週末、お向かいの会社ではフェアを行います。
敷地いっぱいに金属ポールを組んだテント屋根を並べ
さまざまな飲食物や農産物や商品の出店を広げます。
川沿いの駐車場は臨時のフードコートとバンド演奏のステージとなり、
例年ならこのあたりでは一番気候の良い頃で、大勢の人が訪れます。
クレーンを使用するような展示商品は、
会場設営の前に搬入を済ませておかねばなりません。
例えばこんな‥‥墓石。
常になく冷たい秋風に吹かれ
ベランダからぴかぴかの墓石を眺めます。
『奥の細道』に秋風と墓の句がありましたね。
墓ではなく塚でしたっけ。
塚も動け 我が泣く声は 秋の風
芭蕉
翌朝、『ゲラゲ▽ポーの歌』をスピーカーで流しながら
秋風の中向かい岸のフェアは賑やかにはじまりました。
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