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読者への挑戦は受けて立つ!

新聞の読書対談で、推理作家の有栖川有栖氏が、
なるべく多くの人に読んでもらえるように、という配慮からでしょうが、
「クイーンの小説の『読者への挑戦』は律儀に応じる必要はありません」
というような発言していて、ああっ、アリスまでそんな事言わないでっ!
と、思わず叫んでしまいそうになりました。

『女王国の城』(有栖川有栖/著 東京創元社、もう文庫も出ました)は
あまりのボリュームに『読者への挑戦』に部分的にしか答えられなかったし、
たぶん作者もこの流れでは入れにくい、と考えたのでしょうけれど、
『挑戦』があるなら受けて立つのがミステリ者の掟!

クイーン作品は小学生向けに書き換えられたものを読んでしまったので
『読者への挑戦』に応える事ができなかったのが悔しくて、
有栖川氏の『双頭の悪魔』 (創元推理文庫)と、
彼の師匠で、紙面でおすすめ本としてもあげられている
本格の中の本格、鮎川哲也の『黒いトランク』(創元推理文庫)、
どちらも途中で読むのを止めて一晩考えに考え抜いて、
どちらもトリックを完璧に解いたというのが私の秘かな自慢なんですから。

大人になってから大後悔したのは、子供の頃から実家にあったカーやクイーン、
横溝正史に『虚無への供物』や『黒死館殺人事件』等々、
古典と言われるミステリとそれに続く都築道夫、泡坂妻夫等を読み、
北村薫、島田荘司、綾辻行人も父が買って来るのを次々読んでいながら、

しまったああ、鮎川哲也を読んでいなかった!
今にして思えばうちにはアンソロジーまで含めてほとんど揃っていたはずなのに。
たぶん、鮎川作品では主役が「鬼貫警部」、相棒が「丹那刑事」で
字面からふざけたコンビ、という感じがしましたし、
松本清張のように刑事が足で調べる作風だと思って読まなかったのでしょう。

ところが。鬼貫警部って、名探偵じゃないですか!
鰓が少々張っているけれど、甘いもの好きだけど、
一人の女性を心に秘めて独身を貫くところといい、
ストイックなたたずまいといい、フルネームが判らないところといい、
地味なようでキャラも立っていて、文体はほんのりユーモアもあって、
それで事件は一部流行に合わせた社会派と見せかけたものでも、本格パズラー。

有栖川作品の名探偵、江神先輩や火村先生が心に陰の部分を持つのも、
鬼貫警部の造形がかなり影響している感じがします。
どうりで、父が沢山持ってた訳だなあ。
たぶん有栖川氏と一緒で、国内では一番好きな作家だったのでしょう。
‥‥という事に気がついた時にはもう遅く、
書店には当時、鮎川作品はほとんど置かれておらず、
古書店を定期的に漁るはめになり、それでもかなり手元に集めました。

それが最近、光文社文庫の新刊で時々復刊されているんですね。
手持ちの分と重複してないか、毎回ドキッとします。
近年のミステリはもはや異種格闘技状態、なんでもアリなので、
安心して謎解きに挑める正統派はラベルを貼って大切に保護しなければ。

ところで、先日古都の踊り狂う国立大学生のネタを書いた時、
名探偵なのに温厚な先輩と、美少女と一緒にサークル旅行で
謎に巻き込まれるなんて夢のような青春、同じ古都の大学でも
名門私学は雰囲気が違うなあ、と書こうかと思って、
でも国立大生も推理小説研究会が孤島でデビューしているし、
と思って書かなかったけれどやっぱり書いてしまいます。

今は男性の長髪なんて当たり前ですが、江神先輩初登場
(『鮎川哲也と13の謎』シリーズに選ばれた『月光ゲーム』)の頃は
たしか流行の境目で、わざとちょっと時代遅れな感じの長髪を
性格に奇矯さの無い探偵さんの、個性としていたような記憶があります。
『月光ゲーム』の副題は「Yの悲劇’88」、
うわー、永遠の大学生達、もう二十年以上経っちゃったんですね。

それでも、次回シリーズ最終作でも、『読者への挑戦』は必ずお願いします!
by otenki-nekoya | 2011-03-28 17:08 |
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日記


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