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西方浄雨

昨日は思いがけない暴風雨となり、
今日も雨が降り続けています。

日暮れのように暗かった一日の
本当の日暮れの時間になったとき、
窓がぱあっと金色に光りはじめました。

外に出てみると、雨は降り続いていますが
西の雲が切れて真横に強い夕陽がさして、

日が陰って暗くなった町の
上の層は眩い黄金色に輝き、
燦々と金色の雨が降っています。

その上の天は暗く、
町をそっくり入れた大きな透明なビルディングの
三階と四階だけ明るい灯を点したようで

この空中の光の廊下をまっすぐすすむと
西方浄土に届きそうです。
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# by otenki-nekoya | 2012-10-18 21:43 |

みぬく

ハルキ先生には申し訳ありませんが、
どうか今年だけは賞をとりませんように、と願ってしまいました。
いま知らしめずして、いつ万能細胞を世間に知らしめるのです。

それでも連日様々な事件はおこり、
ほんの一週間前の出来事を埋めていってしまいます。

万能細胞を臨床実用化したという
最初の報道に接した時、
連れは不思議そうに言いました。
「なんでこの人、経歴が出ないの?」

経歴で人を判断する、という事ではありません。
研究には必ず「場」が存在する。
「場」は多くの人が関わって成立する。

つまり、誰もしらない──

いわれてみると、違和感が増してきます。


翌日、大騒ぎに発展した続報を連れに伝えました。

ご明察。
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# by otenki-nekoya | 2012-10-14 21:40 | 普段

あらしのあとの名月

雨風が洗い浄めて大気は澄み切っています。
塵があるほうが夕陽は赤く染まるのですが、
塵ひとつないので陽はそのまま光って落ちて、
地平線の上が金色の帯になります。

今年は無理だと思っていたけれど間に合いました。
嵐の去った東の空に、
まんまるい金色の月が。

今、風の中で滅茶苦茶になっている
東の皆さんには申し訳ありませんが、

これ以上望むべくもない程完璧な
中秋の名月です。
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# by otenki-nekoya | 2012-09-30 22:40 |

あらしの境界

灰色の世界の中から空を見上げると
世界の境目が大きな弧を描き、
外側の明るい水色が近づいてきます。

あらしが終わる。
雨が止むと同時に外に飛び出します。

頭上を厚い雲の円盤が通り過ぎ、
いきなりライトを浴びせられるように
強い西日が射します。
上空で台風を観測しているカメラからは
雲の下から姿を現した私がみえたでしょうか。

風で落ちた葉は赤や黄色に色づいて、
つやつや光るすすきの穂が並んでいます。
紺碧の空、輝く露、風に飛ぶ綿毛、
一瞬で世界は彩りにあふれます。

こもっていた生き物達も一斉に出て来ました。
上から降るツクツクボウシの声、
下から湧き上がるコオロギの声、
アカトンボが群れ、小鳥がさえずり、
各窓は部屋干しの洗濯物を出して傾いた陽にあて、
白いむく犬と婆様が散歩し、
電信柱の上で鴉は羽根を乾かしています。

小型の猛禽達はまだ乱れる気流をとらえようと
バランスを崩しながらも舞い上がり舞い上がり、

──サシバ?

渡るのですか。
嵐の去ったばかりのこの空を。
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# by otenki-nekoya | 2012-09-30 21:36 |

偉人の証明

秋風が心地よくなりました。

公園の銅像を訪れる観光客がいないので、
千円高速以前と同じように、銅像の立派な台座は
再び小学生達のおきにいりの場所に戻りました。

石造りの垂直の台座はけっこう高さがあって、
たいていは男の子達がよじのぼり、
ゲームをしたりマンガを読んだりしています。

今日は女の子が二人、台座の上で風に吹かれて
カラフルな長いプリント用紙を
絵巻物のようにぴらぴらさせながら
銅像の足下で宿題をやっているようです。

連れと喋りながら横を通ると、
台座の上から女の子の一人に声をかけられました。

「ねえ、△△△ってどんなひと?」
銅像の偉人は基本、名前を呼び捨てにされます。

えー、知らないの?
「うん、キョーミある!」
女の子は満面の笑みです。

ものすご〜く大きな会社を作った人だよ。
連れも大声を出します。
「『▲▲』って、聞いた事あるろ。
▲▲電気とか、▲▲自動車とか、」
「あるー!」
▲▲銀行‥‥は合併して名前が長くなっちゃった。
▲▲商事、▲▲重工、▲▲マテリアル、▲▲地所、
といっても小学生には馴染みがないけれど。
「まあ、とにかく、大っきな会社をつくった人や!」
女の子は台座から身を乗り出しています。
「すごーい!」
どれだけ通じたかはわからないけれど、
大人二人の熱演に、素直に感心してくれました。

「生まれたおうちも向こうにあるで」
連れが山の方を指差します。
「えっ、△△△の生まれたとこ?」
そう、行った事ないかな?
「ちょっと距離あるけど古い、農家みたいな」
連れは腕で茅葺き屋根の形をしてみせます。

「家族で行った事ある!
ええ〜あれ、△△△のおうちやったの?
知らんかったあ」
女の子はおおはしゃぎです。
「もっと、ヘンな人の家かと思いよったあ」
‥‥。

「わかった!ありがとう!」
にっこり笑った女の子は次の瞬間には
プリントをひるがえして友達の方に向いていました。


このあたりの人は他人に「怖じない」というか、
全然知らない人に普通に話しかけるし、
まるで友達のように敬語も使わないけれど、
小学生でもそうなんだなあ。

「へんなひとって?」
‥‥たぶん彼女の家族が車で行ったのは、二年前です。
「ああ、ドラマで盛り上がってた時か」
おうちのひとは小さかった彼女に、
『ドラマの役』に沿った説明をしたのでしょう。
ドラマを見せて「この人」と言ったのかもしれません。
「それは確かに‥‥変な人にしか見えんわなあ」

大人だって、よく知らないんだと思います。
「貧乏」でも「頑張って」「勉強」した、という
「偉人」の条件は満たしているけれど、功績となると。
こうして半自給自足で暮らせるような地方に居ると、
「大企業」がどれほどの力を持つ存在か実感がない。

町の資料館に展示された赤煉瓦壁の欠片と地図から
世界の中枢の一つとなったオフィス街を思い浮かべ
身震いをした地元民はたぶん少ない。

県内には歴史上の大勢のヒーローが居ますが、
ほとんどが政治活動、それも字義通り己が生命をかけた人達です。
「○○、□□□、●●、■■■、‥‥そうだね、みんな政治だ」
経済的成功者は現代でこそヒーローですが、
武士的価値観ではあまり評価されなかったでしょう。
だから学校でも経済方面はあまり習わなかった。
「今になれば、近代国家ニッポンをつくるとき、
△△△がどれほど重要な存在だったか納得できるんだけど」

ああ、そうですね。
△△△は大きな会社をつくって大金持ちになって、そして
この国も、日本も立派な国にしてくれた人なんだよ、って

銅像のあしもとに居た女の子に、そう言えばよかった。
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# by otenki-nekoya | 2012-09-22 22:40 | 散歩

傘のつかいみち

川の斜面に真っ赤な花のラインがつながり、
朝晩は急に冷え込むようになりました。

さすがは彼岸です。

それでも日射しは痛いようで日傘は手放せず、
どれだけ晴れていても突然豪雨に襲われるので、

結局晴れていても降っていても大きな傘を
ほとんどの女性はさして歩いています。

公園の樹の枝に傘の柄がかかっています。
枝の下は生け垣で見えません。
忘れ物かと思ったら、
柄がくいくいと引っ張られました。

少し黄色く色づいた葉の間に
ぶよんと赤身を帯びた実が見えます。

あ、ギンナンをとっている。

ころころほくほく、といえば、
夏は生の落花生、ほんのり甘いけど
殻ごとゆでるのに四十分くらいかかります。
昨日はむかごが並んでいました。
来週の産直市が楽しみです。

実のついたぎんなんを受け止めた傘は、
洗ってにおいを取らなければ、
さして帰る事はできないけれど。
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# by otenki-nekoya | 2012-09-21 21:36 |

ルビがつぶれそうなほど小さい文字

町に一軒の書店に、
『ファウスト』新訳版(集英社)はないようです。
「訳は今のでいいよ」
じゃあ、同じ新潮文庫で。

「怖い!表紙が怖い!」
私の本は無地でしたね。
「厚くなってる!」
連れが文庫本を手に取って驚き、開いて驚いています。
「字が大きい!全然違う」
昨夜読んだ部分を立ち読みして、更に言います。
「これ、文章も少し違うよ」

ええ?でも訳者は同じ高橋義孝ですし、
初版発行も昭和四十二年だから、
私の本と文章自体は変わりはないはずですが。
「いや、違う、ずいぶん読みやすいもの」

そうかなあ。
それじゃ、例の、博士が契約を結ぶ所。

「え?覚えてるの」
連れはあわててページをめくって指を載せます。
いきますよ。

 己がある刹那に向かって、
「己がある刹那に向かって、」

「とまれ、お前は本当に美しい」といったら、
「『とまれ、お前はあまりにも美しい』といったら、」

あっ、違うっ!
「やっぱり違うでしょ!だいぶ印象が違うよ」

‥‥連休で普段より客の多いTUT▲Y▲の棚の前で、
何のまじないをやっているのだ、と思われそうです。
そそくさと二冊組を買って帰ります。



比べてみたら、『ファウスト(一)』で
私の本は311頁、新しい版は381頁、
字が大きく、行間が広がったぶん、厚さは二割り増し。
文章は基本同じですが、
微妙に言葉をわかりやすくしている部分があります。

奥付にある平成二十二年の七十六刷
改版時に文章も変えたのでしょうか。
これは平成二十三年の七十八刷だから、つい最近ですね。

読みやすさは格段にあがったようで、
連れは昨夜とはうってかわり、
のめりこむように読み進んでいます。


 ──綺麗で詠み易い新しい本がいつでも手に入るというのに、
   こんな黄ばんでルビが潰れそうなほど字が小さくて
   指ががさがさになってクシャミが出るような古ぼけた本を
   なんで捨てようとなさらないんで?

 捨てやしないよ、これがあるからいつでもこうやって
 古い馴染みと無駄話ができるんじゃないか。

 ──へっ。
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# by otenki-nekoya | 2012-09-16 20:19 |

あの学者先生ですかい

ドアを開けた瞬間、連れが
「ふぁうすとあるよね」
と、言いました。

えーと‥‥何がどこに。
「『ファウスト』、持ってるでしょ」
ああ、はい、‥‥え?読むんですか?

なんで今?

以前ゲーテの『ファウスト』の話をしたのは、
ユーロ危機のふぁーすと・いんぱくとの直後だったと思います。
希臘人と独逸人の話題で思いついたのです。

古代ギリシャの絶世の美女ヘレンを手に入れても
幸せになれなかったファウスト博士が、
心から満足したのは、何をした時だったでしょう。

「満足?」

最後に、つい、ある瞬間に向かって呼びかけてしまうでしょう。
『とまれ、お前はいかにも──』

その刹那。
連れが目と口を大きく開いたまま
石像のように動かなくなってしまいました。

思わず心の中で叫んでしまいます。

 めふぃすと、ふぇれーーすっ!

 ──何でしょう。

 私は、お前と契約した覚えはないよ!
 ──そうでしょうとも。こちらとしても得る物がまるでありゃしない。
   そちらにいらっしゃる先生とならば、喜んで賭けを致しますが。

 何を性懲りも無く。以前あれだけの骨折り損をして、
 このお方の魂だって、お前なんぞの手に入るものか。


「‥‥おぼえてない」
あ、動いた。
目を瞬かせて、心底驚いたように連れが呟きます。
「全然、覚えてない。読んだ事は覚えてるのに、全く記憶にない」
それはまあ、別によくあることです。
「すごいなあ、こんなにきれいに忘れるものかな!」
忘れますよ。

正月休みの最後の日、
寒風に吹かれながらスーパーの店頭で
そんな立ち話をしたのでした。


実を言うと、私も最初に『ファウスト』を読んだ時には、
その有名な『瞬間』に、ちょっと拍子抜けしたのです。
なんだ、そんなあたりまえな事か、と。
独逸人は真面目だなあ。

なるほど、そんなものか、と納得できるようになったのは
それからずっと後、何年も人間をやってからの事でした。


そんな訳で、ものすごーく古い本ですが。
「‥‥ホコリがたちそう」
それより。昔の文庫本って、文字が。
「うわーっ、字が小さい、字が詰まってるっ」
読みますか。
「読む。貸して」


どうです。
「悪魔じゃなくて、睡魔に襲われる」

やっぱり、最新の読みやすい版を買いましょう。
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# by otenki-nekoya | 2012-09-15 22:14 |

びっくりするお話

明け方に見た夢をそのまま小説の書き出しにする、
いしいしんじさんの執筆作法が朝刊に載っていました。

夢をうつしたような文章といえば、いしいさん、
川上弘美さん、稲垣足穂、横綱は百鬼園先生。
漱石先生の夢は夢としては筋が通り過ぎている。
夢を言葉に置き換えるのは至難の業です。


例えば私が今朝見た夢。

 本棚を片付けていて、床に近い棚の学術雑誌をめくってみると、
 論文の余白に複数の手書きの書き込みがあります。

 『今やってるシークエンス解析のほうがこれよりよっぽど難儀だ!』とか
 延々配列を書き並べて『誰か解読お願い〜』というような。

 論文発表者の一人の名前に矢印をひいて、
 『この先生、外国人に囲まれて車に乗せられてた!』
 私はその現場を思い浮かべながら、
 いや、あれは□□大学の先生達が迎えに来ただけで、
 誘拐じゃないから、と思ったり。

 書き込みが面白いからこの雑誌捨てられないなあ‥‥

本を片付けながら捨てたくない、
という未練の気持ちがありありと現れています。
紙にペンで書かれてはいるけれど書き手が不特定多数で、
これはネットの書き込みのイメージですね。


例えば昨日見た夢。

 明るい部屋の隅に、友人が静かに座っています。
 彼女の傍らに、茶色い小さなものが
 ぱらぱらと十個ほど浮かんでいます。

 地味な色合いの蝶です。
 膨らませた透明なビニール袋の中に
 とまっているかのようにまとまっています。

 この蝶はそれぞれ、彼女に寄せられた想いなのですが、
 蝶達はあまりにも控えめで、彼女はすぐそこにある
 そのひっそりとした存在に気付いていません。

 彼女はこのままずっと蝶達に気付かないんだろうなあ、と、
 しんみりとしたような微笑ましいような気持ちで眺めています。

最近友人が結婚しました。夢に出ていた彼女とは別の人です。
蝶は、蝶のコレクターが登場人物のTVドラマを見たせいか。


私の夢で見えている物は「気分」を説明するための道具で、
素材の出所はごく手近なものが多いようです。
もう少しタガのはずれた、奇想天外な夢が見たいけれど。

いや、そうではありません。
夢を人に伝えようとして、
あるいは自分が覚えていられるように、
カメラで撮った映像のように描写すると、
夢らしい奇妙さが失われてしまうのです。
本当はもっと何層にも意味不明なものが絡まっていたはずなのに。

インタビュー記事でいしいさんも言っています。
「奥行きがあり、いろんな出来事が詰まった夢を、
 そのままの手触りで小説にするのには、
 すごく時間がかかります」

それはそうと、いしいさんのもう一方の名人芸、
その場の思いつきでつくってしまうお話、
なんと出版されるんですね。楽しみです。

子供の時って、よく思いつきのお話をつくりましたよね。
口から出たとたん自分でもびっくりするような、
めちゃくちゃな、うそっこのおはなし。
楽しかったなあ。
もう自分ではつくれないから。
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# by otenki-nekoya | 2012-09-12 21:10 |

新ショウガのシロップ

箱の中に桃色の爪をした色白の太い指がごろごろ
‥‥近づいて覗き込んでみると、
たくさんの新ショウガです。

産地なので生姜は一年中出回っていますが、
皮をむく手間もアク取りの必要もない新ショウガで
簡単なジンジャーシロップを作りましょう。

新ショウガを洗って、すぱすぱ輪切りにします。
煮て干すと縮んでしまうので、結構大きめで大丈夫。
ざっと洗って鍋に入れ、ショウガと同じ重さの
砂糖をまぶしてしばらくおきます。

砂糖はなんでもいいのですが、
まだまだ暑い日が続くので、
ミネラルたっぷりのキビ砂糖にしました。
新ショウガは水分が多いので、
みるみる汁が出てひたひたになります。

鍋を火にかけて二、三十分、ショウガが柔らかく煮えて
汁が少し煮詰まったら煮沸消毒したビンに汁を漉して注ぎ、
熱いうちに蓋をして密封保存します。
炭酸やジュースなど何で割っても美味しいシロップができました。
今の時期は冷たいミルクに入れるのがおすすめ。

スライスした身のほうは、ざるにひろげて乾かします。
日射しが照りつけていても、俄雨がくるので気をつけて干します。
かちかちになる前、汗のように表面に蜜が浮いているくらいで
グラニュー糖をまぶして密封保存。

この新ショウガスライスの砂糖がけは
キャラメルのように柔らかいので
ついついぱくっと口に入れてしまって、

あははははは。かなり、ぴりぴりします。
甘くて辛くて癖になる。

このショウガスライスを頻繁に使うのは、
シナモン、カルダモン等のスパイスと
紅茶葉を一緒に煮て、ミルクを入れて作るチャイかな。

今回は真っ黒でこくのあるシロップができたので、
次回は白砂糖でさっぱりした
黄金のジンジャーシロップにしましょう。
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# by otenki-nekoya | 2012-09-09 20:56 |

怪物の通る午後

九月になって風は涼しくなったようですし、
蝉の声もツクツクボウシが多くなりました。

けれど夏の終わりの強い日射しはあいもかわらず
コンクリートの建物群を白く照らしつけています。
そのでこぼこ四角い輪郭の向こう、水色の空を背景に、
巨大な薄紫色の不定形な怪物がゆっくりと移動してゆきます。
手前の学校の校舎よりも幅があり、上は雲に隠れています。

時折、細く白い枝のようなものが
体の脇から下へ、ひょい、ひょい、と伸びます。
耳をすませてみると、ツクツクボウシの声に混じり、
かすかにずうん、と低い音がするようです。
こちらに向かう様子もなく、明るい午後の光の中を
だらしなく崩れた怪物はゆっくり向こうを通り過ぎます。


翌朝の地方紙に、隣村の人が昨日の午後の怪物を
近くから──というか内部から──とらえた写真が載っていました。
青黒いくっきりとした柱が地上から雲に向かって伸びています。
沖合で激しく海水を巻き上げ、落雷を伴っていたといいます。
幸い上陸することなく、竜巻は半時間程で消えたそうです。

  あれはもう永久に姿を消しました。
  もともとあれの体を構成していたものにわかれてしまって、
  二度と存在することはできないでしょう。
  正常な世界ではありえざる存在だったのです。

強い太陽の光の中では、海に落ちる稲妻も、
ただの白い紙のように光を失って見えました。

あのとき薄紫色の塊の下に巻き込まれた舟がいたら、
甲板には巻き上げられた海水と
海の魚達が降り注いでいたかもしれません。
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# by otenki-nekoya | 2012-09-04 21:01 |

ひそかな警告

夜十時前、遠くに防災無線のサイレンが聞こえたようでした。
何かあればすぐ咆哮する近所の消防署は沈黙しています。

やっぱり遠くで、今度はスピーカーで何かを告げている。

TV画面を見ると、『津波注意報』という
ぎょっとするようなテロップが。
続いて、震源地の表示。

南の島国です。遠い。

おそらく消防署では放送をするかどうか悩んだのでしょう。
この夏は川の氾濫だの落雷による火事だの夜更けに騒動が多く、
夜明けとともに仕事を始める人の多いこのあたりは、
夜はもう休ませてくれ、というような訴えもあった事でしょう。

おそらく住民を煩わせないように、海岸沿いのスピーカーでだけ、
「海岸や河口に近づかないで下さい」という放送を流したのです。

波が実際に届くとしても、夜半過ぎ。
空は満月を覆った雲で明るい銀色をしています。
沖から寄せて来る銀色の波があるとしても、
海辺の民を脅かすほどのものではない事を祈り、眠る事にします。

ようやく寝苦しい夜も去りつつあります。
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# by otenki-nekoya | 2012-09-01 19:59 |

白いネズミの夢を見る

「きのう、こわいゆめをみた」
連れが真顔で言います。

連れの夢はとてもシンプルです。
先週の夢はこうでした。
「さむすんと、あっぷると、きんぎょが出て来た」
TVで放映されていた宮崎アニメを見て、
ニュースで判決を聞いて、寝たのです。
そのままです。何の置換にもなっていません。


連れは仕事などが立て込んで来ると、「怖い夢」を見ます。

私が最初に聞いた「怖い夢」はこうでした。
「ゾウに踏まれそうになった!怖かった!」
‥‥それだけ?

次に聞いたのはこうでした。
「廊下にワニがいて、かまれそうになった!」
かまれなかったんですか?
「みんな逃げたけど、□長がかまれた!」
自分は無事かい。

その次。
「ああ怖かった〜、猫におっかけられた」
猫、割と好きでしょ。怖いですか?
「塵捨て場から、死んだ猫が『捨てんといてくれ〜』って走って来た」
‥‥それは怖い。

どうやら「焦り」の気持ちが夢の中で
「動物に襲われる」という形をとるようです。


それで、昨夜は何に襲われたんですか。
「ネズミが足をかじってきた」
‥‥どんどん小さくなりますね。
「サンダルの底が厚いから最初は大丈夫だけど、
振り払ってもまた白いマウスが続きをかじるから」
え?ネズミって、実験用マウスですか?

白ネズミの夢と言えば普通は吉兆と言われます。
私達はサザエさんに悲鳴をあげさせるような
ちょろちょろ屋内を走るネズミの姿を
実際に目にする事はありません。
猫が自慢げに持って来る戦利品も、
走って逃げ去る事はありません。

普通の鼠の姿を見た事がない者の夢に
いわゆるネズミは出てはこれない。
生き生きと動く様を見慣れているのは
ピンクのしっぽに赤い目で純白の体の
アルビノのハツカネズミという事になります。
BL/6を扱う従姉妹の娘は黒いネズミの夢を見るのかも。



でも、夢の白いネズミはネズミの姿をしていても
本当はネズミではなかったのかもしれません。

帰りが遅くなった連れは寝る直前に新聞を読んでいました。
地方紙には絶滅を宣言された昔馴染みの哺乳類を惜しみ、
地元各地で撮られたたくさんの写真が載っていました。

ヌートリアは殖えているというのに。
「あんな大きなネズミ、いやだ」
そんな話も前日にしていました。

かわうそ→ぬーとりあ→ねずみ→まうす

齢経る獺は化けると謂ふ。
昔、川で遊んだ児の夢に、
化けて出でたか、かわうそ。
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# by otenki-nekoya | 2012-08-30 22:39 |

かわうそ、もう君はいないのか

水面から細長い身体を起こして
銀色の魚を小さな両手でつかんで齧る、
丸い頭を回してカメラを見る、

ローカル局は手持ちの画像が豊富です。
全国ニュースは川を泳ぐ最後の目撃映像でした。

「こんなのが川に居たら楽しいのに」
子供の頃、夏は毎日川で泳いでいたという連れが呟きます。
もしかしたら子供達は気がついていなくても、
本当にそのころは一緒に泳いでいたのかもしれません。


地方自治体の広報紙は秋に備えて、
鳥獣被害を防ぐ特集を載せています。
各農家や集落でできる対策として、
『お墓のお供え物は持ち帰りましょう』
『集落に現れたサルは、他人の畑でも追い払いましょう
(次はあなたの畑が狙われるかもしれません)』
『しつこいイノシシやシカは狩猟免許を取って駆除しましょう』
電気柵の設置のコツなど、
「できる事から」取り組むようアドバイスされています。

狩猟免許を取る‥‥。
「イノシシ狩りって、ほとんど犬がやってくれるんだって」
銃を持つ前に、犬を飼う方が先ですね。

カワウソももし殖えていたら、罠のウナギを取るとか、
養殖の網を破る、などと駆除対象になっていたかもしれません。

そうはなりませんでした。

夏休みが終わります。
雨で濁った川からはニンゲンの子供達も姿を消し、
もちろんニホンカワウソも見られません。


 けれどもみんなはまだ、どこかの波の間から、
 ニホンカワウソが出て来るか或いは
 ニホンカワウソがどこかの人の知らない洲にでも着いて
 立っていて誰かの来るのを待っているかというような
 気がして仕方ないらしいのでした。
 けれども俄かに環境省がきっぱり云いました。
 「もう駄目です。消えてから三十年たちましたから。」
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# by otenki-nekoya | 2012-08-29 19:04 | TV

天の川の見えない八月

この夏の天候は出だしから調子がおかしくて、
梅雨明け十日は例年かんかん照りになるものを
なんとなく雨が降り止みませんでした。

梅雨が開けたのに天の川が見えない、
と、言うと、連れが驚いた様でした。
「えっ、あまのがわって、タナバタでなくても見えるの?」

‥‥。
七夕が雨にならないように皆が祈るのは
織姫・彦星・天の川が年に一度、
七夕の夜にしか見えないからなのですか。

‥‥ではありませんね。
天の川の事なんて普段は考えた事もないから、
天の川はあなたの世界に普段は存在していない。
天の川という言葉を聞いた瞬間にだけ、
天の川はあなたの世界に現れる。
だから天の川の存在するのは七夕の時だけ。


天の川なんて、一年中見えますよ。
夏の天の川は一番幅が広くて目立つのです。
星なんて、そう簡単に動くものではありません。
「金星はなんだかいつも動いてるよ」
だから惑星と呼ぶでしょう。
うろうろ惑う星。
「ああ、そうか、惑星以外の星はぜんぶ太陽だね」
そうです、ほとんどの星は太陽系外の太陽
‥‥ややこしいので恒星と呼んで下さい。

充分星が見える環境に住んでいても、
マーズの六月の日記にあるように、
あれが天の川だ、と知っていて見る人は
やはり本当に少ないようです。


八月初旬の花火の終わり、
天の川の事を思い出したときには
もう雨が降り始めていました。
天の川の中を打ち上がっていたはずなのに、
花火しか見ていなかった。
あそこに白く幅広い柱のように
立ち上がっているはず。

八月の天候は本当に不安定でした。
「あまのがわ、見たよ!」
連れが嬉しそうに言います。
「三日月より細い月があって空を見たら」
確かに、月が明るいと天の川は見えにくい。
「白いものが伸びていた。あれが星の集まりとは判らないね」
急いでベランダに出ましたが、空はまたも雲に覆われました。

旧暦の七夕も過ぎたのに、
毎晩目の前に立ち上がるはずの天の川は
いまだ見る事がかないません。
台風は遠いはずなのに、
今日はいきなり台風並みの暴風雨に巻き込まれました。

前言は撤回します。
天の川は、一年中見えるものではありません。
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# by otenki-nekoya | 2012-08-28 20:25 |

虹に呑まれる

夕食にしようとベランダのテーブルにつくと、
東の雨雲の前に虹が出ていました。
「いつもあそこに出てるね」
先週も、去年も、
夏の日曜の日暮れ時の虹はいつもあそこに見えます。

遠くの台風の波が届き、
町中の物音も湧き上がる蝉の声もものともせず
怒濤が響いています。

遠くの台風の雲が届き、
ここ数日はつよい日射しを折々遮っては
東から西へ雨雲が流れます。

「普段は西から東へ雲が流れてくるのに」
東に現れた雨雲の雨粒に西日があたって出来た虹は、
雨雲がこちらに近づくにつれ雨粒が大きくなるせいか、
画像処理したかと思える程どんどん色が鮮明になります。

国道の向こう側のガソリンスタンドの
もひとつ奥の黒っぽい屋根から、
燃え上がるように幅の太い虹が立ち上がり、
弧を描くというより直立する虹の外側には
もう一本淡い裏返しの虹が並びます。

ガソリンスタンドが虹に捕らえられたかのようです。
西の、向こうの建物から見たら、
私達が二重の虹に囚われているように
見えているかもしれません。

夕陽で橙色に光る雲の角が頭上を過ぎ、
暗く濁った雨雲の腹の下に入ると
屋根の下なのに細かなミストを浴びます。

ゆっくり大きな魚が泳ぐように雨雲は
熱い路面を冷して通り過ぎました。

怒濤に乗せて秋の虫の声がします。
涼しい夜になりそうです。
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# by otenki-nekoya | 2012-08-26 21:34 |

海風の民

舟の舳先に立つような、
心地よい風が海から吹いています。

日の出とともにブルーベリーやオクラを摘んで
朝の九時には出荷も全て終えた人達が
そこここの日陰でずっとおしゃべりをしています。

用事があってもぎりぎりになるまで
冷房の効いた店舗内などに入る人はありません。
日が長けると路上の人は消え、
風の抜ける暗い家の奥で休むようです。

この喜ばしい風が、山を高く越えて遠くの街に下る時、
ただごとならぬ暑さを生み出していると思うと
なんだか申し訳なく思います。

天気は一日のうちに何度も目まぐるしく変わり、
晴れていても突然激しい俄雨が訪れます。
時には青空の下で豪雨に見舞われる事もあり、
きらきら輝くクリスタルが降り注ぐようです。
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# by otenki-nekoya | 2012-08-21 21:32 |

私を知らない競争者

決して我が愛読書を恥じた訳ではありません。

ただ、この町には私が姿を知らない幾人かのライバルが居ます。
町に一軒の書店に割り当てられる数量の少ない新刊書籍、
例えば角川文庫の山田風太郎復刊や有栖川有栖のノベルス。

山風は私のほうが持っていない分だけ手を出すので
たまにしか争奪戦にはなりませんが、
先月出た『闇市日記』は狙っていたのに負けました。

有栖川有栖のノベルスは特に、
毎回先を越されて買われてしまいます。
稀覯本でもあるまいし、中心市街地の書店ならば
問題なくいつでも手に入るものですが、
その感覚が抜けないせいで、
地方での勝負の気合いが足りていないのかもしれません。


 そんな町で。
人目に触れる可能性のある場所にうかつな履歴を残したら。
それを姿も知れぬ競争者に見られたとしたら。

 ある夜、町の居酒屋で隣合った見知らぬ人物から
「失礼ですが」と声をかけられるかもしれない。

「謎解きがお好きなのではありませんか?」
 いけない。答えてはいけない。

「先日、私は実に不思議な体験をしましてねえ」
 いけない。耳を傾けてはいけない──


 無意味な妄想は、退屈そうな声に遮られた。
「ノベルスは毎回先を越されている、と言ったよな」
 そうだ。私はこの町では一度も現物を見た事がない。
「最初から一冊も入っていないんじゃないのか」
 失敬な。いくらノベルス割当量が少ない地方店とはいえ。
私は反論を試みる。
「いくらなんでもそれはないやろ。
現に、新刊単行本は毎回山積みや」
 山積みは誇張である。
「文庫は」
「大概売れ残っとる。お互いほとんどが既読やからな。
文庫版あとがきだけ読んで棚に戻すわ」
 棚のなかでじりじりと背表紙の列が長くなっていくのは、
新規読者が現れていないという証拠で、淋しくもある。
「だったら」

「ノベルスを買ってる奴は、そんな呑気な競争相手が居る事に
気がついていないんじゃないのか?」

 おそらくそうなのだろう。
私が一方的にライバル視しているだけなのだ。
「そいつはお前と違って新刊をずっと心待ちにして
こまめに書店に通っているんだ。
いじらしいじゃないか、譲ってやればいいだろう」
「せや──な」
 曖昧な相槌を打ちながら隣を見ると、
相手の顔にかすかな安堵の表情が浮かんだように見えた。

「おまえかっ!」

──そんなわけはありません。
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# by otenki-nekoya | 2012-08-18 21:47 |

リレキ詐称

田舎の人口が最も増える盆休み、
常になく賑わう店舗内に紛れ込みます。

町に一軒だけの郊外型大規模電気店と、
町に一軒ずつの携帯電話会社各支店。
店員が客の対応に追われている隙に──

悪事を働く訳ではありません。
そういえば、『カラスの親指』(講談社文庫 著/道尾秀介)の
映画化、予告を見る限りでは原作に忠実な作りのようですが、
しかしあんなに目に立つ外見の主人公では成立しない話なのでは。

──目立たないようにタブレット端末を手に取ります。
落雷でネット回線がダウンした時、
ふとタブレットを所有してみるのはどうだろうと思って。

電車通勤者は少ないけれど屋外作業従事者が多い地域です。
しかも園芸農業等はデータが命。
掘り起こせば良い市場になるのではないでしょうか。

しかしながら町内でiPadを取り扱う店舗はなく、
某携帯一社はデモ機がバッテリ切れで動かず。
このあたりではあまり需要がないようです。

店員さんが説明に飛んでこない程度に操作します。
あまぞんのサイトでも開いて作家名で検索、
誰にしよう、アリスでも打ち込んでみようか、
タッチパネルで‥‥H・I・G・A・S・I・N‥‥

日和った。
日和りましたでコイツ。

カンニンな。
ほんまにセンセ、カンニンやで。
うちかて見栄ちうものがあんねん。

町に一軒の店舗というのは、
私が今後も頻繁に出入りする可能性があり、
私の個人情報も保持している訳で、
私が気付かなくても店員さんやお客さんが
私に気付く可能性もあるので、

残される履歴もなるべくあたりさわりなく。

小さな町というのはほとんどの店舗が
徒歩数分圏内にまとまっていて便利ではありますが、
小さな町というのはこういうところが不自由です。
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# by otenki-nekoya | 2012-08-17 21:42 |

いきをふきかえす

先週来の悪天候は回復しましたが、
いぜんインターネットに接続できません。

雷でモデムがふっとぶという話もよく耳にしますが、
屋内のケーブル、接続、機械の動作、初期化、設定、
思いつく限りのチェックを済ませた感じでは
うちの機械達はそれはそれは一生懸命働いています。

壁に吸い込まれていくラインを見ます。
おそらく、この先がつながらない。

故障担当部署に電話します。
「お客様のほうでそこまで確認していただけているのなら」
話は早い。
「今からこちらで予備の回線につなぎます。電話を切ってしばらくお待ち下さい」

電話を切って数分、いきなりこれまでと様子が変わりました。
点滅し続けていたランプがひた、と止まり、
すうっと息を吸い込むようにブラウザの画面が変わります。

つながった!
間髪を入れず電話がかかってきます。
「あとは外での工事になります。
もし不安定になるようでしたらまたご連絡下さい」

やはり回線が雷で落ちていたのでした。
ああよかった。
まるで思い切り呼吸ができるようになったようです。

しかし、落雷の夜からもう五日は経っています。
週末+お盆だったとはいえ、私以外にも不通になった人は多いはず。
申し立てがないと修理はしないのでしょうか。
それともお盆休み明けに出社したらえらいことになっていた
‥‥というパターンかな。
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# by otenki-nekoya | 2012-08-16 21:12 | 普段

龍の巣

五輪が終わってようやく早く寝られる
‥‥と思ったのですが。

夜中の三時ごろから翌朝までずっと
雷鳴が続いて眠れません。
先日のようにここの頭上ではないものの、
町の入り口の低い山をはさんだ向こうで、
不思議な事にこちらには近づかず、
ずっと同じ距離で轟いています。

そんな明け方が二日続きました。

ニュース映像で、見慣れた地区が
巨人の通り道のように踏みしだかれています。
停滞する巨大積乱雲が産むのは雷だけではない。

私は横になってずっと巨獣のあしおとを聞いていたのでした。
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# by otenki-nekoya | 2012-08-15 21:08 |

乱舞

お城下のライトアップの中で色鮮やかに舞踊る
夏祭りのTV中継映像がいつのまにか
黒いアスファルト路面を映し出し
画面上にお知らせのテロップが出ています。
『祭りは雷雨のため中止になりました』

珍しい、雨が降ろうが槍が降ろうが踊り狂う人達が。
お囃子の伴奏機材が使えなくなるからでしょうか。

数時間かけて、祭りを止めさせた雷雲が近づいてきました。
これは、確かに踊っている場合ではない。
ひっきりなしに空は紫白に明るみ、
やがて立て続けに雷鳴が、

TV画面が消えました。
電灯も時々すうっと暗くなります。
すごい電圧です。

TVとパソコンの電源を切り、コードをコンセントから抜き、
ケーブル類も取り外します。

落ちた。
近い。

近所の消防署がサイレンを鳴らし、
消防車が次々と出動します。

火事になったのか。
光る空に照らされて浮かび上がる町の中に火の手を探します。

また落ちた。


ひとしきり暴れた雷雲は夜半には過ぎ去りました。

翌日、落雷によって二軒の木造家屋の火事があり、
うちからインターネットがつながらなくなっている事を知りました。
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# by otenki-nekoya | 2012-08-11 22:59 |

いちばんひかる

ちいさいころ、「いっとうしょう」に金色の短冊型の紙が貼られ、
「にとうしょう」に銀色の紙が貼られるのが納得いきませんでした。

黄色く光る金色より、赤く光る銅色より、
白く光る銀色のほうが純粋できれいなのに。

いまや長寿シリーズとなったTVドラマの
初期シリーズを再放送で見ました。
いまや国民的名探偵となった警部殿が、
英国では結婚指輪は金が普通ですが
日本では結婚指輪はプラチナが主流、
日本で金の結婚指輪と言うのは大変珍しいですねえ、
というネタで犯人の目星をつけます。

確かに、日本で指輪といえば銀色です。
「ロード・オブ・ザ・リング」のリングは金色です。
極楽浄土を模した世界は絢爛たる金色で、
大陸の都市では金製品ショップが軒を連ねますが、
江戸っ子の持ち物はやっぱり銀細工でなきゃいけねえ。

競技選手達が目標を尋ねられると、
「いちばんきれいな色です」
「いちばん光っているのを」
と答えます。

この婉曲表現が長い間気になっていたのですが、
前回五輪の某公共放送テーマ曲が
この疑問をそのまま歌詞にしていて、
競技を盛り上げる曲ではないけれど共感を呼ぶ歌だ、
さすがはみすちる、と感心しました。

今回五輪が始まり、ニュースを見ていた連れが
「あれ?このメダル何だったっけ」と聞きます。
銀ですよ。
「銅に見えるなあ」
ああ、壁の赤い色が映っているんです。
「ほんとだ。向きを変えたら色が変わった」

数日後、はじめて日本選手が決勝戦に勝ち
メダルを掲げてみせました。
「わあ、ほんとに一番光っている!」
ほんとうだ。
これまで、金メダルが他のメダルと比べて特別に
きれいだと思った事はありませんでしたが、
一番きれいで、
一番光っている。

「‥‥大きいね」
倫敦大会のメダルは本当に大きくて重いそうです。
色もきれいに見えるのは大きいからか、作りのせいか、
本物を見た事がないからわからないけれど、

‥‥。
どうして綺麗に見えるのか、わかりました。
この四年の間に私達の価値観が大きく変わった
‥‥せいではなくて。
見慣れたのですっかり忘れていたけれど実は、
TVが地デジになって画質が良くなったのです。

私は知らなかったけれど、競技者達はみんな知っていた。
ずっと昔から、本物の金メダルは光っていたのです。
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# by otenki-nekoya | 2012-08-08 22:09 | TV

倫敦的天候

驟雨が去っていったと思ったら一転眩い日射し、
と思ったらいきなりの大雨、
五輪開催地ではあるまいし、朝から落ち着かない天候です。

女子マラソンは路面が濡れていますが、
こちらは雨があがりました。
ベランダの椅子に座って正面で上がる花火を見ます。

見事な花火だと、下の階の小学生兄弟が
「おおー」「おおー」と声を合わせます。
隣の小さな子供達はその声が面白くて
きゃっきゃと笑います。

低いのでここからは見えない仕掛け花火が
正面の高校の硝子窓越しにちらちら見えます。

いつも時間ぴったりに終わるのに
今回は数分だけ終了が早かったな、と思ったら
花火のうしろに大きく見えていたさそり座が雲に隠れて

ざあっと雨になりました。
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# by otenki-nekoya | 2012-08-05 22:50 | ベランダ

群青

夏休みでも学生さんはいろいろと忙しいようで、
小さな電車は夏の制服でいっぱいですが、
男子はたいてい立っているので混んでいても大人は座れます。

先頭の座席に座っていた家族連れのうち、
赤ちゃんを連れたおかあさんが
道中にわかに立ち上がり叫びます。
「うわあぁぁ‥‥‥きれい!」

旦那さんの実家に初孫を連れていくところでしょうか。
群青色の潮と青い海を真っ白い泡がふちどって砂浜に広がります。
「すごぉい、なんにもない、」
叫んでから、補足します。
「景色を遮るものが、なんにもない!」

残念ながらこの海で泳ぐことはできません。
でも赤ちゃんが大きくなったら、
夏休みはお祖父ちゃんちにいって
川で泳ぐのを楽しみにするようになるでしょう。
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# by otenki-nekoya | 2012-08-01 21:24 | 散歩

たそがれ時

この強力な光の中で
海はさぞかし青いだろうと思われますが
白熱する外界に踏み出す勇気はありません。

太陽が沈んでからやっとふらふらさまよい出ます。

日射しが消えると同時に吹いていた風もとまりました。
もっと涼しくなるのを待っているのか、
夕食中なのか、五輪競技に見入っているのか、
通りには人っ子一人歩いていません。

時ならぬ人影にびっくりして振り返るのは猫ばかり、
今時分は自分たちの天下だと油断しているのか、
あう猫あう猫みなぎょっとしたように
動きを止めこちらを見ます。

暮れて行く砂浜の上を探します。
ああ、ちゃんと張り直してある。
先週間に合わせに流木で囲んであった四角が
木の柱と白い紐できちんと区切られています。

海のそばの消防分団の二階に明かりがつき
挨拶と拍手が降って来ます。
そういえば昼間、何を言っているのか聞き取れない
防災無線で消防団が呼び集められていました。
放水競技会があって慰労会をしているのでしょう。

思いがけず暗くなるのが早く、小走りで国道に出ます。
角のドラッグストアまでが早じまいしていて、
町中だというのに公園横のうちまでは
わざとのように暗闇が続いています。
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# by otenki-nekoya | 2012-07-29 21:20 | 散歩

うしの日

ウナギが高価い高価い、と話題になっているようです。

「そんなにみんなウナギって食べるのかなあ?」
コナン君の友達のゲンタ君は毎回高価なお宝を
『うな重』換算しているではありませんか。

「会合でよく料亭のうな重とか出るけど
そんなに頻繁に食べたいとは思わないよ」
それはたぶん、栄養のある餌をたっぷり与えられて
きれいな水で養殖というか肥育された若ウナギですね。
「牛でいったらすごい霜降り状態か」
私は牛の脂でおなかをこわすので
高級霜降り牛はもう何年も食べていません。
負け惜しみではなく、牛は赤身がおいしいです。

恒例の隣町の川で獲られた天然ウナギ尾頭付きを
開いて軽く白焼きにしたものをいただきました。

かたじけない。

さっとタレを塗って、あぶります。
ごはんなしでもさくさくと身だけ食べてしまいそうになります。

「これはおいしいよ!あぶらが全然しつこくない」
人智をかけて味良く育てられたウナギを上回る
野生のウナギというのは、余程豊かな環境で育ったのでしょう。

たとえばこれほどの辺境。
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# by otenki-nekoya | 2012-07-27 22:17 |

いち

「1メートル四方」とタイトルを打って、
アラビア数字とカタカナと漢字が混じると
見た目になんだか落ち着かないなと思い、
それで思い出した事があります。

以前遠目に見た地方紙の見出しで
縦書きで紙面のまん中に大きく
『ITにかける情熱』

‥‥。
違和感を感じました。
大きな写真と周りを囲む記事の紙面構成から察するに、
地元で仕事に打ち込む若者を紹介するコーナーだと思うのですが、

情熱をかけるには『IT』では漠然とし過ぎているのでは?

気になるので、紙面に近づいて見ます。
写真の青年は飲食物を扱うような
白い上下と白い帽子で、

あ。
お豆腐屋さんだ。
『ITにかける情熱』ではなくて、
『1丁にかける情熱』

‥‥だったんだ。
でもまだ何かがおかしい。

あっ。

見出しにするならば、
『一丁』なのでは?

縦書きで『一丁』としたらしたで
『テにかける情熱』
『〒にかける情熱』
と見間違えたかもしれませんが。
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# by otenki-nekoya | 2012-07-23 21:20 |

1メートル四方

黒く重たい雨雲の塊が次々と飛び去って行くのを
ごうごうと海風に吹かれて見上げます。
南の島で爆撃機を見送るようです。

ようやく流れ込む川の濁りがおさまり
空は雨雲でまっ暗くても
澄んだ海の水は何層もの深い青になりました。

片付けても片付けても浜を覆う木片は
とりあえずめぼしいものだけ
数メートル間隔に積み上げられています。
どれだけ手間がかかっても、
この時期必要な作業なのです。

ああ、あった。
白いハマユウの花と紫のハマゴウの花の群落まで
砂が吹き寄せられこんもりとしたところに
短い白木を砂地に打ち込み
ぴんと白い紐を張った正方形の結界、

海から来たりしものが
重い軀を引きずり辿り着いた跡。
そして海に還りし跡。

小走りに駆け寄った人間の靴跡。

砂浜のはしのほうに、
流木で同じように正方形が描かれていました。
後で気付いて、手元に結界セットがなかったので
周囲から白くまっすぐな流木を選ったのでしょう。

白く囲われた砂の下に白く丸い卵が眠っている。

黒く縁取られた蝶が、砂浜を舞います。
アオスジアゲハ。
その鮮やかな青緑は
その海の中の一色と似ています。
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# by otenki-nekoya | 2012-07-22 22:07 | 散歩

雨あがりに鳴く

例によって突然の豪雨に川の水位が高まっていきます。
気象レーダーの画像で見ると幸い雨雲から抜けそうです。

例によってからくも難を逃れました。
雨がやんだので小鳥達の声が聞こえます。
きっと今月初旬から現れたクマゼミも鳴き出す‥‥

ほーほけきょ。

‥‥なんで七月の町中の公園にウグイスが。

ニュースでは、隣村を襲った突風被害を伝えています。
突風。
たぶん竜巻。

山から吹き飛ばされてきたか、うぐいす。
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# by otenki-nekoya | 2012-07-12 17:34 |
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日記


by otenki-nekoya
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