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白昼の鮫

本日の浜の漁はだいたい終わったようです。
浜の一番奥で最後の網が上がるのを、
人と鳥と作業車の集団が待っているのが見えます。
手前の空いた浜では休日の釣り人が一人、
竿を青い海に向けています。

大きく潮が引いた急斜面の下の砂地を、波をよけながら歩きます。
まだ四月なのに、こんなに日射しが強くなるとは思いませんでした。

干場の近くの道路に戻ると、漁具置き場のトラクターの荷台に
山積みにされ、崩れたまっ白い材木のようなものが何十本も

「サメだ」
私の背丈程の、ぴんとまっすぐに伸びたサメが何十匹も。
背は赤味がかっていますが、多くはまっしろな腹を上向け、
三角の口には純白の尖った三角の歯がぎっしり並び、
頭の先端はT字型に突き出した特徴的な形をして。

ハンマーヘッドシャーク。
シュモクザメです。

突き出した柄の先端を横から見ると
透き通ったゼリーに覆われたまんまるい大きな真っ黒な
目が。

こんなに綺麗に透き通ってこんなに綺麗に真っ黒で
目だけ見ていてもわからないけれど
でもこんなに棒のようにまっすぐ固まって動かないのだから

いきてはいないのです。
何のにおいもしないけれど、血の一滴も流れてはいないけれど、
いきていたら何十匹ものサメの山にいくら私でも足は踏み入れない。
真っ白く、まっすぐで、整った形をしているからまるで作り物のような、
端正な異形の鮫を触れる程間近で眺めます。

日射しが強いので干場では皆が忙しく干物を仕上げ、
観光客の車が立ち寄り、サメの山などにかまう人はいないようです。

暑いので、影の多い住宅地の中を歩きます。
「ハンマーというと‥‥カナヅチザメ?」
シュモクザメです。鐘木というのは
鉦をかんかん鳴らすときの木の槌です。
「金槌だと泳げないもんね。網にかかったのかな」
おそらく。シュモクザメは群れになります。
「あ、それであんなにたくさん。邪魔だったろうなー」
一応、カマボコになりますが。
でもまだ小さいですね。成体はあの二、三倍くらい。
「確かに、歯がまだ小さかった。でもあの歯だと」
人も襲います。
「いるんだ。そのへんに」


強い日射しで夏のようだった休日の
各地の賑わいを夜のニュースが報じています。
水族館の青い水の中の生き物を指差し、
歓声を上げる子供達と一緒になって連れが叫びます。
「あれ!あのサメ!」

画面をゆらりと横切り身を翻す巨大な鮫の、
T字型に突き出した頭部をカメラがアップにします。
目が、こちらを──見たような。

いきている。
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by otenki-nekoya | 2013-04-29 22:17 | 散歩

あの座敷で

三月から四月になる頃
覚め際に夢を見ました。

 私は薄い紙を手にしている。
 十センチ四方程の赤い背景の中に白い卵型の女の顔がみっつある。
 正面を向いた女は目を閉じ、重ねた両手の上にあごをのせている。
 一人は薄く口を開け、一人は口を閉じ、違う方を向いている。
 もとの絵からこの三人の顔の部分だけを切り抜いたのだろう。
 他の人物の腕や衣類らしき部分も混じっている。
 階段に緋毛氈を敷いて数人の女性を配置した日本画であるらしい。

 女の顔の細い描線と緑がかった白い顔料から日本画だと思ったのだ。
 鮮やかな赤と白い楕円の対比は、マティスの画のようにモダンでもある。
 紙片を裏返すと、小さな活字がぎっしりと印字されている。
 新聞の切り抜きなのだ。

 全体図を見たいと思い、顔を上げる。
 向かいに坐った友人が、目を伏せる。
 さっきまで、絵に見入る私を見ていたというのに。
 私が言葉を発する前に、友人はことさらなにげない事のように言った。
 「君は見なくて良い」

 そのとき、さっきまで座敷にだらしなく寝そべっていた男が
 まっすぐ起き上がってじっとこちらを見ているのに気付いた。
 私ではない。腕を袂で組んでうつむいた友人の後頭部を見ている。

 そしてまるで幼い児のように強く口を引き結び
 大きな瞳から涙が零れるのを耐えるような表情で

 ──見ている。
 友人の記憶の中にある、私の知らないこの画の全体像を。


 私は、目が覚めかけている事に気付いた。
 私はこの座敷を離れて、「私」ではない私に戻らなければならない。

緋毛氈だと思ったあの赤い背景は本当は。

目覚めた私は思います。

久しぶりだったなあ。
私が「私」になったのも、あの友人達に、あの座敷で会ったのも。

日本画は、TVで見かけた、
何十色ものパステルのようにガラス管に詰めた
携帯用の岩絵の具に心惹かれたせいでしょう。

懐かしい三人組が出て来たのは、昔皆で書いた長い長い文章を
最近になっても楽しんでくれている人が居る事を知ったため。

あの当時鮮烈なデビューを果たし、
皆が読んだミステリ作家の訃報が
三月の終わりにネット上を流れ、
翌日の新聞に載りました。

悼んでいたのです。
あのあさ、あの座敷で。
新聞紙をハサミできりぬいて。
私達は皆で悼んでいたのです。
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by otenki-nekoya | 2013-04-18 22:35 |

帰ってきたみほとけ

帰ってきた連れが
「えっ、こんなことがあったの?」と
ドアの取っ手を握ったまま九時のニュースを見ています。
今日は事件がいろいろあったのです。

九時半を過ぎてふと思い出し、
某公共放送のニュース番組から
旧教育放送に切り替えます。

画面いっぱいに現れる二十体を越す絢爛たる仏像。
「うわあ、すごい!如来と、菩薩と、えーと、明王がいっぱいいる」
密教系はやっぱり豪華ですね。

一番外側は「天部」と解説の先生が言います。
「天!仏の守護!格好良い!」
連れがうなります。
番組アシスタントのしのらーは、帝釈天を見て叫びます。
「せ、センセー!‥‥イケメン!」
‥‥連れと、しのらーのテンションが一緒。

「え?これ東寺?京都の?」
今まで、塔と塀しか見た事なかったですね。
「真言宗だったのか‥‥」

「天台宗のほうは」
あ、出ました比叡山。去年の大河ドラマを思い出します。
「でも焼いたのは信長だ。とんでもない事をするなあ」
神も仏も信じていないのは同じくせに、
美しいものが大好きな連れが天下人のテロルを非難します。

やはり好評だったのでしょう。

全く関心のなかった連れがいきなり仏像に開眼した
このうえなく有り難いTV番組『仏像拝観手引』、
この四月からセカンド・シーズンがはじまっていました。
(Eテレ 毎週火曜 午後9:30ー9:55放映)

次回はこのあたりでも馴染み深い「阿弥陀さま」だそうです。
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by otenki-nekoya | 2013-04-16 22:27 | TV

春の新番組

日曜九時
通りかかった連れが画面を見て不思議そうに言います。
「あれ?さっき見た人達が」
容保公と梶原さまと勝先生が揃って洋服で。
「これ、今日からはじまったドラマ?」
つまり撮影では‥‥お城はもう落ちたのです。


月曜九時
人気シリーズの番宣を見た連れが不思議そうに言います。
「『帰って来た変人』?‥‥別に『変人』じゃないよね?」
そうですね。でもそれを他所で言ってはなりません。
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by otenki-nekoya | 2013-04-15 22:54 | TV

桜と秋月

某公共放送大河ドラマですが。
「いつもだと、最後が近づくとだんだん淋しくなるよね」
たとえ天下人といえど英雄といえど、
たいてい死ぬ所で終わりますから。
「でも今年はまだ春なのに、もう、すごく悲しい」

出る人出る人、かたっぱしからフラグ立ててるすけ。
ヒロインは明治になってからも活躍するけんじょ、
お城は──夏いっぱいは保たねえかもしんねえ。


ああー。秋月さまが会津を去りなさる。
「江戸へいくの?」
何を呑気な、エドでね、エゾ、
「蝦夷?蝦夷地代官?寒いよ、死んじゃうよ!」
さすけね、それは戻ってきなさる。
だけんじょ、薩摩にも長州にもネットワークを持つ
秋月様をここで遠ざけるとは、
あんつぁまではねえが、藩は時勢に疎い。疎過ぎる。
「可哀相だなあ」

こうなったら、いっそ次回の薩長同盟も
おもいっきり悪だくみっぽい表現に徹して欲しい。
ひそかな罪悪感を持つ私達が
苦難を負う愚直な人々に涙するために。
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by otenki-nekoya | 2013-04-07 22:17 | TV

ベールをぬぐ

青い空なんてひさしぶりです。

昨日の激しい雨と南風が
今日はゆるく絶え間のない西風にかわり
霞か雲か桜の花か、朧に白く漂っていた
すべては洗い流され吹きはらわれました。

山は淡く柔らかいほわほわとした緑と
常盤木の濃い緑が混じってくっきりと見えます。
点々と燃えるような緋色は山躑躅、
やはり今年は花が早いようです。

明日にはまた霞んでしまう。

風で浜には猫一匹いません。
昨日は透き通った波が高く垂直に落ちて、
なかなかの壮観だったそうです。

濁った海も柔らかい緑色がいりまじり、
雲が落とす影の下は青く、
うねりながら風に煽られ複雑にねじれた波が
浜に打ち付けて風に舞う細かい白い飛沫となります。

吹き続ける西風に、何度も帽子をさらわれます。
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by otenki-nekoya | 2013-04-07 22:14 | 散歩

ヒトキリ

そうだ、象山先生が斬られたのでした。
「誰にやられたの?」
以前、肥後の宮部さんが出ていましたね。
「ああ、池田屋で新撰組にやられた」
あの人と同じ肥後の攘夷派で‥‥ちょっと待っててください。

 勝海舟『氷川清話』・勝海舟『海舟語録』
      (江藤淳・松浦玲/編 講談社学術文庫)

『語録』のほうだったと思いますが‥‥
まあ、勝先生も何度もあわや、という場面に合っていますが、
こちらはボディーガードのおかげで難を逃れています。

 おれの側に居た土州の岡田以蔵が忽ち長刀を引き抜いて、
 一人の壮士を真つ二ツに斬った。
 『氷川清話』

「えっ、以蔵?以蔵は襲う方でしょ」
確かに。ドラマで京に“天誅”の嵐が吹き荒れている描写で
本間精一郎と目明かし文吉の暗殺が取り上げられていましたが、
あれは両方とも以蔵の仕業です。
でも、ナントカと剣は使いようといいますか。
「あー、そういえば『龍馬伝』の時、
 龍馬が以蔵を勝のところに連れて行く話、あったね」

 後日おれは岡田に向かって、『君は人を殺す事を嗜んではいけない、
 先日のような挙動は改めたがよかろう』と忠告したら 
『氷川清話』

「‥‥それじゃ自分が死んでたじゃない」
以蔵にもそう言われて、返す言葉がなかったそうです。

ところで『嗜む』という言い方は、
「楽しむ」と言ったら言い過ぎかもしれませんが、
慣れている感じがありますよね。
でも、勝先生は以蔵の腕には感心こそすれ、怖がっていないでしょう。
どんな身分の高い人物、優れた人物の事でも軽妙に語る勝先生が
「コワクテコワクテならなかった」と語ったのは、

肥後の河上。

人を斬っても少しも様子にあらわれず、澄ましている。
ある日、勝先生がついに言います。

 『あなたのように、多く殺しては、実に可哀相ではありませんか』
 と言ふと、「ハハア、あなたは御存じですか」と言ふから、
 『それはわかって居ます』と言ふと、落付き払ってネ。
 「ソレハあなたいけません。あなたの畠に作つた茄子や胡瓜は、
 どうなさいます。善い加減のトキにちぎって、
 沢庵にでもおつけなさるでせう。アイツラはそれと同じことです。
 ‥‥

                           『海舟語録』

「‥‥こわい」
勝先生、自分も狙われるかもしれないと思って

 『‥‥だまって殺されるのは困るから、ソンナトキは、
  ソウ言うて下さい、尋常に勝負しませう』

「勝負って(笑)」
いや勝先生、あれでも剣術はかなり修行しています。
「そうだよね、心得がなければ生きのびていないよね。
 それで?」

 「ハハハ、御じょうだんばかり」と言って笑うのさ。始末にいけない。

本当にそんな恐ろしい人だったのかどうかはわかりません。
それにしてもこの勝先生の話の感じでは、象山先生を斬った
「仇」が目の前に座っている人物だと、知らないみたいですね。

「‥‥だれ」
河上彦斎。
「あ、あ──あ、人斬りゲンサイ!」
ハハア、あなたは御存じですか。
「それは、聞いた事がある」

ソレハあなたいけません。
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by otenki-nekoya | 2013-04-01 22:27 |
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日記


by otenki-nekoya
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