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つかわせる

辺境に放たれしただ一本の『御矢』は私が賜った。

ぴ。
伝えよPOS、此の地にも一人の僕在りし事
(主に新訳待ち)。

町に一軒の書店恒例の
大手出版社新刊文庫争奪戦、
棚の展開の仕方から推察するに
森見氏の季節感たっぷりの文庫は四冊売れてあと二冊、
柳氏のシリーズ二作目は一作目と並べて
お薦め本棚にも山積みなので心配ない、
山風復刊は既に買われていますが、
今回は持っている本なので問題ありません。
岡本綺堂の『三浦老人昔話』(中公文庫)が復刊、
『半七』はミステリで『青蛙』はホラー、
『三浦老人』は江戸の世話物といいますか。

箱に山盛りの夏休みのおまけの包みを
各社分何度もひかされます。

最初から地方で手に入らない本は通販しますし、
電子書籍もそろそろ本腰を入れて来たようで、
書店の形態も変わっていくのでしょう。

それでも採算が取れないから、と、
町に一軒の書店が撤退してしまったら、
この小さな町での私の唯一の社会的娯楽
「立ち読み」が楽しめなくなってしまいます。
それだけは阻止せねばならない。

衣類も家電もとりたてて新たに欲しいものはありません。
けれど、地の果てにても消費者あり、と叫ぶため
あちこち読みかけのまま自室に積まれた本を思いつつ
今日も本屋で本を買うのです。
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by otenki-nekoya | 2012-06-30 21:41 |

流木

防潮堤の間から海の見える水門で、
砂をすくい取る作業をしている御夫妻がいます。
門扉のレールの上を砂が覆っているのです。
防潮堤に届く程波が来たのでしょう。

雨に濡れて鼠色のはずの海岸が一面、
何層もの茶色い木屑の線に覆われています。
これは大変な量だ。
砂の上に異様な形の、垂直の棒の束の頭を
ぐしゃぐしゃの曲線で束ねたようなものが転がっていて

逆です。ぐしゃぐしゃの曲線は地中で丸く絡んだ根、
棒の束は株立ちしてまっすぐのびた木の幹です。

どれくらいの大きさがあるのだろう。
折よく雨も止み、傘をたたんで歩み寄ります。
ねじれ絡んで円形にまとまった根の部分で私の背丈ほど、
たぶん園芸用の株だったのでしょう、
根付いて伸びたぶんをひきちぎられた根は青々とした香りがします。

まっすぐに揃った幹は直径20センチ以上、
株立ちで十本あまり、間に細い株ものびていて密集しています。
枝も葉もちぎられて、何の樹かは判別できません。
木肌の感じはアオダモのようにも思えます。

垂直に揃った幹を階段のように上って
横倒しになった樹のてっぺんに立ちます。
眩しくなく暗くなく暑くなく寒くなく
空気は水を飽和状態で抱えています。

すこし先に柔らかくうねった一本の樹木の幹が
全ての樹皮をはがれて磨き上げられて
美しい杏色の曲線を描いて横たわっています。

あの樹がまとっていた枝葉も樹皮も根も、
この砂浜を覆う流木や枯れ草の中のどこかに
木っ端微塵にまぎれちらばっているのでしょう。

海は全ての塵を海岸に打ち上げ終わったようで、
薄緑の水面は塵一つ浮かべず
狼藉の跡も残さずそっと波打っています。
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by otenki-nekoya | 2012-06-24 22:40 | 散歩

水際の攻防

豪雨の晩、川縁の自動車の水没を逃れるために、
翌朝の朝食セットと洗面道具をつかんだ連れは
仕事場に向かおうと道路に乗り入れると

‥‥車がさぶさぶと水に浸かっていったそうです。
見通しの利かない中、行く手を見ると
動けなくなった自動車がいるようです。

雨合羽の市職員が指示に駆け寄って来たそうです。
「町の中の道は冠水しています、
川沿いを走って下さい!」
あの濁流の際を?
「まだ決壊していません」
確かに、川の堤はこのあたりでは一番高い道です。
渦巻く水面すれすれを走り、市街地を抜けたそうです。

川の氾濫はかろうじてまぬがれたと思っていましたが、
後で聞くと排水が追いつかず浸水した地域がけっこうあり、
暗闇の豪雨の中、大冒険を敢行した御老人などもいたようです。
夜十時に外から町に戻って来たら、既に国道は冠水していたという証言も。
広報車が絶叫していた時点で、町は陸の孤島になっていたのでした。

それでも、あやういところで雨が止んで今回はしのげましたが
「干潮だったんだって」
え?
「一番水位が高かった時、たまたま干潮だったって」
あ!そうだ。
今回ここに代わり大浸水にあった町は、不運にも満潮が重なった。

上空の気象のせめぎあいだけではない、
地形や排水設備や潮のタイミングなど、
様々な条件が関わるから、行政の判断に頼るのは難しい。
あの市役所青年決死の絶叫アナウンスも、
ニュースによれば「避難指示」にはあたらないそうです。
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by otenki-nekoya | 2012-06-23 20:37 |

一難去る

三階まで浸かりましたどうしましょう、
川の水がそこまでくるか、と
夢につっこみながら目が覚めました。
雨音で起こされはしなかった。

明るくなった舗装路を見下ろすと、
枯れ草や泥はついていない様子で
今回は氾濫は免れたようです。

朝のTVニュースを見ると、
他所の町が一面の水原となっていました。
ここがこうなっていたかもしれません。
深夜の人々の一騒動が治まるころ、
並んだボウルの水滴の音階も静まりました。

階段を下りると、各階のドアの前に各自の愛車が、
自転車ですが──いろとりどりに避難しています。
確かに以前水没したときには自転車、
泥と枯れ草まみれになってて水道でざぶざぶ洗ったっけ。

ああ、空の半分が青い。
なんだか久しぶりに青空を見ます。
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by otenki-nekoya | 2012-06-22 14:31 |

真夏の夜の水

深夜11時、市役所の広報車が何か叫びながら前を通ります。
滝のような豪雨の音にかき消されて全く聞き取れません。

並の雨量でないのは分かっています。
明かり取りの天窓のまわりの木枠から雨が漏り、
コントのようにダイニングに洗面器やボウルを並べて
様々な音階でしたたる水を受けていますので。

サイレンが鳴りはじめました。
川だ。
ベランダから見下ろして待ちます。
一周して来た広報車が真下を通ります。
「□□川が警戒水域を越えました!
大変危険です、直ちに避難して下さい!」
若い男性職員が絶叫しています。
それもそのはずで、ヘッドライトが照らす目の前の川は
橋に届かんばかりの濁流と化しています。

このあたりは四年前の梅雨にも夜半に川があふれ、
朝、扉を開けたら一面水に囲まれて
カリオストロの城のようでした。

避難先は海側の小学校と、市民ホール。
確かにすぐ隣の中学校は水に浸かるでしょうが、
小学校は橋を渡らないと行けないし、
ホールは本流の川に近い。
ここは町中で、崩れる斜面はなく、
あふれる可能性の有る側溝は多い。
この叩き付ける雨の中を移動するよりは、
とりあえず二階に上がるのが良いのでは。

ただ、確実なのは川があふれれば
駐車してある自動車は水没します。
避難するのか、車を移動するだけなのか、
にわかに雨がライトアップされたかのように
表はヘッドライトで明るくなります。

一日中雨だったので実感がなかったけれど
今日は夏至で、一年で一番短い夜のはずでした。

長い夜になるかもしれません。
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by otenki-nekoya | 2012-06-21 23:55 |

海の中に立つ

昨日山を崩し道を塞ぎ交通網を閉ざし
川をあふれかけた豪雨の茶色い水が
今日は海で白い六月の陽光に輝いています。

本当に水量が増えたのか水際がいつもよりずっと近く、
それでも少し水はひいたようで少し手前に
時に生木も混じる流木のラインがずっと続いています。

水際が近いからつい水際まで寄ってみたものの、
ごろごろの石の上を歩くのでなかなか進みません。

海の中に、七夕のささを立てたように、
一本の竹が立っています。

海沿いの町に、海に笹を立てて倒れた向きで
豊漁・豊作を占う祭りがありますが、
この竹はただ崩れた土地から流れて来て
たまたま海底に突き立って
骨のような枝と緑の葉をゆっくり波に揺らしています。

何の神意もなく、何の吉凶も告げず、
それでも海のただ中に立つ笹は印象的です。

ごろごろ歩きにくい石の上を少し進んでは、
ふりかえって波間に立つ笹を探します。

まだ立っている。
まだあそこに立っている。
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by otenki-nekoya | 2012-06-17 20:59 | 散歩

雨を受ける前に

水を控え、味を凝縮した小さめのトマトの実は、
水を吸うとはじけてしまうそうです。

雨が本格的になる直前がこのあたりでは
トマトのラストスパート、
産直市のボックスは小指の先から小さめの握りこぶしまで
様々な大きさのトマトで赤く埋まっています。

やや大きさが不揃いなので都会に出荷されなかった
規格外格安高糖度トマトを濃厚なトマトソースにします。

真っ赤なトマトソースと白いモッツァレラチーズと緑のバジル。
今日のベランダランチはカプレーゼ風パスタ。
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by otenki-nekoya | 2012-06-17 19:49 |

フルーツトマトの冷製パスタ

ピンポン玉くらいの大きさで、
黒っぽく見えるほど実のつまった
樹上完熟トマトをたくさんいただきました。

新タマネギの白と紫を半分に切ってスライスし、
ほんの少しの醤油と塩、粒マスタードとヴィネガー、
とっておきのエキストラバージンオリーヴオイル、
ベランダで伸び盛りのバジルの葉をちぎって、
四つ割りにしたトマトにあえて冷蔵庫で冷やします。

やわらかめにゆでたほそめのスパゲティを水で冷やし、
ボールいっぱいのトマトサラダにからめます。

マリネされたトマトが、イチゴより、チェリーより甘い。
これが地元が全国に誇るフルーツトマト!
皿にたまる汁もそのまま飲み干してしまいます。


このトマトサラダは、私が高校生のとき
趣味がこうじて家業のかたわら、
県内初の本格フレンチレストランを作った父の友人、
Y社長におそわりました。

「すごい!レシピを貰ったの?」
いえ、口伝で。
「簡単でございますよ」と白尽くめのスーツに蝶ネクタイのY社長が
その場で絶品トマトサラダの作り方を語り、そして秘密を明かしました。
「T谷の『小さいトマト』がとびきり美味しゅうございます」

今にして思えば、あれが地方ブランド野菜のさきがけだったのです。
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by otenki-nekoya | 2012-06-10 20:39 |

なきつるかた

夜九時頃、外から戻って来た連れが言います。
「ホトトギスが鳴いてた!」
あなめでたし。初音を聞きしうえは、一首読み給へ。
「えー?えーと、えーと」

 きょきょきょっきょきょ こんどはほんとの ほととぎす

‥‥。
下の句は?

「えー?‥‥平安貴族は大変だなあ」

「ホトトギスって、見た時もういないよね」
町の上を渡りながら鳴いていますね。
「ウグイスはじーっと見てたらそこにいるんだけど」

 ほととぎす 鳴きつるかたを 眺むれば
 ただ有明の月ぞのこれる

「そう!まさにそんな感じ、声の方を見たらもういない」

後徳大寺左大臣。
「さすが左大臣、歌が上手だなあ」
徳大寺家はもともと佐藤義清が仕えていた詩歌の家柄だそうです。
「ノリキヨ‥‥西行か!」

清盛の息子達と役職の取り合いになるので、
徳大寺・藤原実定は「平家物語」の中では策を弄するんです。

 其時入道うちうなずいて、
 「あないとほし。王城にさしもたッとき霊仏・霊社の
 いくらもましますをさしおいて、
 我崇奉る御神へ参ッて、祈申されけるこそ有りがたけれ。
 是ほど心ざし切ならむ上は」とて、

                    『平家物語 巻第二 徳大寺厳島詣』


重盛を辞めさせて宗盛を飛び越して、右大将にしてあげる。
「厳島神社に行っただけで?清盛いいひとだ」
この書かれ方だと、実定はあまり好かれてなかった感じです。
「でも歌は上手だね」

かるた取りでも、「ほ」、と言ったとたん
下の句の札が取れますし。
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by otenki-nekoya | 2012-06-09 22:50 |

焚かれるほう

人間を強引に二種類に分類すると、
「本を読む人」と「本を読まない人」に分けられます。

そのくくりでは連れは「本を読む人」の側に入ります。
「『三四郎』『それから』『こころ』『門』は読んだ」
正統ですね。
「『坊ちゃん』と『我が輩は猫である』は読んでない」
‥‥え?

私は『坊ちゃん』と『猫』は小学校の図書室で借りて
夏休みのプールサイドで読みました。

ああそうか。
本を読む人は、ものごころつく前から本を読んでいた人と
自覚的に本を読む事を自分に課した人に分けられる。

連れは春には山で、夏には川で、冬には田畑で遊んで、
本どころかテレビもほとんど見ない子供だったのです。
本を読みはじめた時点で、『坊ちゃん』と『猫』は
既に子供っぽいと思ったのでしょう。


ブラッドベリが亡くなりました。
「有名なひと?」

人間は「ブラッドベリを読んだ人」と
「ブラッドベリを読まなかった人」に分けられます。


思った通りです。
雨の季節に入りました。
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by otenki-nekoya | 2012-06-07 21:15 |
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日記


by otenki-nekoya
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