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月はわざわざ見ない

西の地平にまっすぐ突き刺さるように、
明るい星の真上に、           
皿のように横たわった三日月の真上に、 
大きな星が。
「珍しいでしょ」
見事、等間隔で串にささった三兄弟のようです。

「このごろずっと、大きな星がふたつあるなあ、と思ってたんだけど」
海風が止まると花粉が押し寄せるので、私は
日が落ちてからもずっとうつむいていました。
「今日になったら月が間にはさまった!」

「三日月っていつもこっち側が光ってるよね」
太陽に向いている側が光りますから。
「こう、反対側が光ってる三日月ってあるの?」
三日月とはいいません。
満月を過ぎ、下弦の月を過ぎて細くなっていく、
二十六夜、二十七夜、
「あるのか。見た事ないけど」
太陽に向いている側が光りますから、
「そうか、寝てる時に出るから見た事ないんだ」
見た事ありませんか。夜明け前の東の空に光る細い月。
「ない。月蝕だって、このあいだ生まれて初めて見た」

あの凍天を見上げた皆既月蝕。
「どんどん月が細くなって、ぎりぎりまで細くなったから
すごく寒いしもういいかな、と思って部屋に入ろうと思ったら」
防寒、という概念が欠落しているんですよ南国育ちは。
「君が光らなくなった月を見ろ、って言うから」

「なんの事だろうと思って光が消えるのを待っていたら」

あの赤い月が。

「生まれて初めて見た」

私は小学生の時一人で夜中に起きて見ました。
夏だったので月が低くて見やすかった。
淀んだ温気の中で初めて見た影の中の月は
禍々しい程の赤銅色で

「周りがげっしょくだ、げっしょくだ、と騒ぐのは知ってたよ」
わざわざ見る事は無かったと。
「だって、月の形なんていつも変わっているから」
なるほど。
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by otenki-nekoya | 2012-03-26 22:05 |

マイナス要因

ひろびろときれいでひとっこひとりいない
旧商店街を強い西風が吹き抜けます。
久しぶりに青空になりました。

ブティック、文具店、インテリアショップ、時計商、
店構えは明るく空き店舗はひとつもありません。
商店街の奥には藩政時代に海運で栄えた
富商の屋敷や蔵があり、子孫に引き続き使われています。

先日全国的に話題になるほど
ここの公示価格は急落しました。

地域経済の低迷だけではありえない。
四百年栄えた地方商業地の価値を貶めたのは
三百年栄えた地方産業の根幹であったもの。
その正体をごらんになりますか。

老舗菓子店と新しいクリニックの間の辻に立ちます。
澄んだ青と碧と紺の層が鮮やかに重なり
強い西風に波だってきらきら輝く海がそこにあります。
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by otenki-nekoya | 2012-03-25 18:41 | 散歩

網を引く

彼岸も此岸も曖昧な程度に曇っているので
青くない事はわかっているのですが、
三方から降る花粉を避けるには
結局海風の吹く海岸を歩く事になります。

祝日ですが日曜ではないのでこのあたりの人は
ほとんどが普段通りに仕事をしています。
鈍い銀色の海にも船は出て
海岸に八人ずつ二列に人が並んで

ああ、ちょうど網を引くところだ。
がらがらと歩きにくい大きい玉砂利の
波打ち際までゆくと潮が満ちてきて、
先週私が延々と歩いた砂浜は波の下になっています。

寒さもおさまり日射しも強くなく、見物には丁度良い。
するすると二本のワイヤーはモーターで巻き取られ、
ワイヤーに絡めた網はもつれないように皆が手渡しで
浜に置かれた木造船の中に丁寧に積み上げてゆきます。

オレンジ色の浮きで囲まれたところが
だんだん狭まり近づいてきます。
海面がそこだけ盛り上がるようにざわめきます。
目印の浮きが上がったあたりでいきなり
大きな蛸が青年の脚に絡み付き、しばし格闘が行われます。

なんとなく銀鱗煌めく、といった獲物を想像していましたが、
網の底が浜に上がり、ずっと波打ち際に立っていた男性が
巾着の口を開くように覆いかぶさった黒い網をはねのけると、

赤い。
薄日をうけてぴかぴか跳ねる赤い群。
一面の鯛です。
中には力士が祝いに掲げる程、とまではいかなくとも
恵比寿様が小脇に抱えるくらいの立派な鯛もいます。
赤く敷き詰められた鯛の中に、
てのひらくらいの眩いコバルトブルーの円が見えたので、
チョウチョウウオでもいるのか、と見ると
ホウボウが片鰭を広げていたのでした。

何本か、銀色の反りのない洋剣のような形に
鈍色の斑のあるのは魚編に春と書いて鰆
──よりは少し小さい、サワラの若魚、サゴシです。

長さ50センチ程のサメと
直径50センチ程のエイは網の外に放り出されます。
スーパーの籠のごついような
水切り籠がトラクターで運ばれて来て、
魚の山に踏み込んだ人達の手で
ぽいぽいと種類別に放り込まれてゆきます。

一人の青年は屈んだ腰を波に洗われながら、
暗色に変じたまるまるとしたコウイカに
縦に千枚通しのようなものを突き立てて
次々としめています。
若魚といえどやっぱり長い
サゴシ専用のタッパーが着きました。

人間が一仕事終える頃合いを見計い、
普段海岸では見かけないカモメが集まってきました。
最初は私達だけだった見物人もずいぶん増え、
カメラをかざす人もあり、
自分の指程の銀色の小魚を拾い、
魚を仕分けていた女性に渡す律儀な幼児もいます。
上空では鳶がとりあえず輪を描いています。

ここまでとは思っていませんでした。
いつも眺めている海の、
底のほんのひとすくい。
宝石箱のように美しいとは。
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by otenki-nekoya | 2012-03-20 19:07 | 散歩

調伏

新たまねぎのまだ小さいの、といいますか
新たまねぎの若いのに葉っぱのついたのといいますか、
透き通るように白くてたよりないたまねぎに
がっしりとぶ厚く力強い濃い緑の葉のついた、
もしかしたら葉たまねぎというのでしょうか、
とにかく柔らかな新たまねぎにくっついて
ごつい葉が何重にも折られて束ねられています。

まだ小さいたまねぎの玉は切り取って、
ぼうぼうと伸びた太い葉のほうを
ざくざく10センチくらいに切り、
オリーブオイルを薄く塗った小鍋に
ぎゅうぎゅうと詰め込みます。

こんな小さな鍋に山積みになった葉がはいるものか、
物理的に絶対無理だと思ってもとにかく押し込みます。
たまねぎもネギなので葉は中空、
かさばっても力を込めればどんどん入ります。

小鍋にあふれても可能な限り積み上げ、
無理矢理蓋で押し付けて弱火にかけます。

一時間後に蓋を取るとあら不思議、
小鍋の底にとろんとろんになった緑と
ひたひたのスープが出来ています。

これがあの荒ぶる多頭の大蛇のような。
すっかり滋味溢るる御姿に。
小鍋にぴたりとはまる蓋が有り難き法具です。

塩を少し混ぜてココット型に移し、
好みのチーズをのせて、
オーブントースターで焦がします。

トーストを添えてお手軽オニオングラタンスープ、
正しくはオニオンの葉のグラタンスープ。
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by otenki-nekoya | 2012-03-19 20:05 |

うってつけの日

三方を杉山に囲まれた恐るべき花粉の里は
海から風の吹くこんな雨降りの日のほうが
外を歩くのには適しています。

雨の日か夜にしか外出しないなんて。
ブラッドベリの有名な短編の最後の行のよう、と
いつもこの時期になると思います。

傘の中で顔を上げて薄暗い路地を歩くと
頭の上で真っ白い塊が爆発しています。

傘をかたむけてみあげると満開の白木蓮。
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by otenki-nekoya | 2012-03-18 18:50 | 散歩

あいにくのお日和

灰色の閉ざされた空にローター音が響きます。
お馴染みのドクター・ヘリの緊急出動ならば東に抜ける、
転院の場合は河川敷のランデヴー・ポイントに降りる、

なぜか爆音が一定の箇所に留まっています。
灰色の空の下で黒い腕のように里を囲む
なだらかな山の頂きの上、
筆で点を打ったようにヘリが空中停止しています。

山裾には公立の総合病院、少し離れて消防署、
山道を辿ったとていずれ数十分もかからないので
救助でも救護でもなさそうです。

視察でしょうか。
三月に入ってからはこんな空模様ですが、
それ以前は三ヶ月間に渡り雫の一粒も落ちぬ
それは見事な晴れっぷりでした。

里を囲んで海に伸ばした
腕のようななだらかな山は
メガソーラーの候補地のひとつとききます。
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by otenki-nekoya | 2012-03-15 19:44 | ベランダ

三月十一日

いつもの日曜日の散歩です。
たまたま引き潮の時間にあたりました。
歩くのに難儀するごろごろと大きな玉砂利の浜から
大きく2メートルほど切り立った砂壁の下
普段は水の底の平らな砂浜を波が静かに洗っています。

降りて行くと濡れた砂は三和土のように歩きやすく、
白いレースのような波の縁ぎりぎりをたどって行けます。
大きく従順なけものを従えて行くように、
ずっと海の隣を歩きます。

時々雲が横切り海は翳りまた輝きます。
どこまでいっても滴一つ散りかかりません。
ずっとずっと歩き続けても
海は私を害する事なくおとなしく傍らに居るでしょう。

でもそれは
たまたま。


山越えの乾いた北風は吹かなくなったので、
銀色の鰯は日当りの良い浜に吊るされています。
大振りのアジの開き、ふっくら白いフグの味醂干し、
一面に広げられた雪のような釜揚げちりめん、
おそらく百年前も干場は同じような光景だったでしょう。

それがここでは続いているのも
本当に、たまたま。
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by otenki-nekoya | 2012-03-11 17:21 | 散歩

怒鳴門!


『日本文学史 近世篇二』(著/ドナルド・キーン 訳/徳岡孝夫 中公文庫)にて、
 天才劇作家・近松門左衛門の作劇術について述べられた後、
近松以後の浄瑠璃は人形を遣うがゆえの新手の技巧を発展させ
(生身の役者が演じるのでは、首が落ちるシーンなどが不可能)、
衝撃的で非現実的な独特の方向性に向かった、といったくだりは
日本アニメ独特のぐろカワイさの進化に通じるものがあるなあ、
と深く感心したのですが。

せ、先生。
日本国籍取得は大変お目出度き事、
さりながらそのお名前。
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by otenki-nekoya | 2012-03-09 17:19 |

花咲くローズマリー

思いがけずいっせいに花開いたといえば、
ベランダに植えたローズマリー。

常緑のローズマリーは
他のハーブが少なくなる冬場頻繁に使うのですが、
例年クリスマスの頃からぽつぽつと小さな花をつけ、
枝を折りとるときは花のない枝を選んでいました。

今回の冬は寒かったなあ、
陽の射し方も変わってきたので鉢の位置もかえましょう、と
ローズマリーの鉢を回してみたところ。

こんもりと暗緑色に茂った葉の上一面を覆って
淡い紫がかった水色のローズマリーの花が
ふんわりとまるで可憐なブーケのように。

うわあ、ローズマリーの花がこんなに綺麗なら、
料理用とは別に観賞用のトピアリーを作ってもいいかな。

これはきっと特別に今回の冬の寒さが生んだ花束です。
例年にない寒さは気に入りのセンテッドゼラニウムを
一鉢枯らせてしまいましたが、
佳いものを見せてくれたから良いとします。
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by otenki-nekoya | 2012-03-08 19:14 | ベランダ

うめふぶき

「梅吹雪を見た」

地主さんのコレクション梅林ですか。
「いつもは一月頃からぽつぽつ咲き始めるのに」
駐車場横に集められた何十種類もの梅は
それぞれの時期にひっそり咲き始め
それぞれの時期にはらはらと散ります。
それが例年にない寒さで開花が滞っていました。

「今月に入ってどんどん咲き始めたな、と思ったら」
白、薄黄、薄紅、紅、濃紅、絞り、八重、枝垂、
「風で全部の花びらがいっぺんに散って」

一面の梅吹雪。

日中、晴れて強い南風が吹いていました。
気温は五月並みだったそうです。
「耐えられなかったのかな」
例年ならだいたい咲き終わっている時期です。
「はじめて見た。うめふぶき」


その二日後はまた雨になりました。
残った花びらも白と紅の滴になって土に降ります。
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by otenki-nekoya | 2012-03-08 18:44 | 散歩
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日記


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