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TUT▲Y▲忍法帳

紙上対談の有栖川氏のお相手は、『悪の教典』(文芸春秋社)で
第一回山田風太郎賞を受賞した貴志祐介氏。
貴志氏も親が隠していた『甲賀忍法帳』を、
やっぱり中学の時こっそり読んでたんですね。
親に隠れて大人の本を読む、これぞ読書の王道。

新刊の『ダークゾーン』(詳伝社)の書評を見ると
異形と化した仲間とともにチーム対決をするという設定で、
こっちのほうがそのまんま山風っぽいです。
でもルールは将棋ですか。うーん。
私は子供の頃チェスでは遊んでいましたが、
将棋は生まれてこのかた駒さえ触った事がありません。

以前、仕事場で「黒髪の乙女」が
『あと千回の晩飯』(山田風太郎/著 朝日文庫) を読んでいて、
ち、ちょっと待って、どこからそこに行きついたの、と驚いて尋ねると、
「食べ物関連のエッセイがいろいろ紹介されてた本で」
‥‥なるほど
「そのなかでも、これは面白いタイトルだなあと思って」
‥‥彗眼です。
「内容も面白いです」
‥‥その人の小説、読んだ事がある?
「ないです。どんな作品ですか?」
『魔界転生』とか『甲賀忍法帳』とか
「聞いた事あります!映画になってますよね、どんなお話ですか?」
えーと、まあ、特別な能力を持ったキャラ達が
対決する王道バトルものの原点というか、
「特別な能力」
目力だけで人を操るとか、手足が自在に伸び縮みするとか、
「ゴムゴムの実ですね!」
‥‥そう言われてみると、やっぱり王道ではないな。
どんなにキャラが立っている登場人物でも、
惜しげも無く片っ端からやられてしまいますから、
やっぱり邪道の王というか。
正直ちょっと、若い女性にはお薦めしづらいです。

角川文庫が新刊で山田風太郎ベストコレクションを出していて、
これまで出た分はだいたい以前読んでいたのですが、
『太陽黒点』は読んでいなかったので買いました。
いわゆる『太陽族』と呼ばれる世代の若者達をめぐる悲劇
‥‥とみせかけて、山風得意の仕掛けが施されています。
これは動機がなんとも言えず切ない。
山風ミステリとしてはほとんど最後の作品のようです。

今回の角川文庫の山風新刊は明治もので『地の果ての獄』、
これも読んでない、とTUT▲Y▲に行ったら、
しまった‥‥先を越された。残ってない。
同時に出た桜庭一樹の『GOSICK Ⅶ』は平積みでばばばばーんっとあるのに。

地方だと入荷点数が少ないので、固定ファンがいる作品は早い者勝ちなのです。
川上弘美の文庫新刊などは毎回秘かに「黒髪の乙女」と争っていて、
新刊広告が出てからTUT▲Y▲に行って、もう売り切れてる、とすごすご帰り、
数日後、彼女が机の横に置いているのを見て「無念、敗れたり」と思うのでした。
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by otenki-nekoya | 2011-03-29 16:48 |

読者への挑戦は受けて立つ!

新聞の読書対談で、推理作家の有栖川有栖氏が、
なるべく多くの人に読んでもらえるように、という配慮からでしょうが、
「クイーンの小説の『読者への挑戦』は律儀に応じる必要はありません」
というような発言していて、ああっ、アリスまでそんな事言わないでっ!
と、思わず叫んでしまいそうになりました。

『女王国の城』(有栖川有栖/著 東京創元社、もう文庫も出ました)は
あまりのボリュームに『読者への挑戦』に部分的にしか答えられなかったし、
たぶん作者もこの流れでは入れにくい、と考えたのでしょうけれど、
『挑戦』があるなら受けて立つのがミステリ者の掟!

クイーン作品は小学生向けに書き換えられたものを読んでしまったので
『読者への挑戦』に応える事ができなかったのが悔しくて、
有栖川氏の『双頭の悪魔』 (創元推理文庫)と、
彼の師匠で、紙面でおすすめ本としてもあげられている
本格の中の本格、鮎川哲也の『黒いトランク』(創元推理文庫)、
どちらも途中で読むのを止めて一晩考えに考え抜いて、
どちらもトリックを完璧に解いたというのが私の秘かな自慢なんですから。

大人になってから大後悔したのは、子供の頃から実家にあったカーやクイーン、
横溝正史に『虚無への供物』や『黒死館殺人事件』等々、
古典と言われるミステリとそれに続く都築道夫、泡坂妻夫等を読み、
北村薫、島田荘司、綾辻行人も父が買って来るのを次々読んでいながら、

しまったああ、鮎川哲也を読んでいなかった!
今にして思えばうちにはアンソロジーまで含めてほとんど揃っていたはずなのに。
たぶん、鮎川作品では主役が「鬼貫警部」、相棒が「丹那刑事」で
字面からふざけたコンビ、という感じがしましたし、
松本清張のように刑事が足で調べる作風だと思って読まなかったのでしょう。

ところが。鬼貫警部って、名探偵じゃないですか!
鰓が少々張っているけれど、甘いもの好きだけど、
一人の女性を心に秘めて独身を貫くところといい、
ストイックなたたずまいといい、フルネームが判らないところといい、
地味なようでキャラも立っていて、文体はほんのりユーモアもあって、
それで事件は一部流行に合わせた社会派と見せかけたものでも、本格パズラー。

有栖川作品の名探偵、江神先輩や火村先生が心に陰の部分を持つのも、
鬼貫警部の造形がかなり影響している感じがします。
どうりで、父が沢山持ってた訳だなあ。
たぶん有栖川氏と一緒で、国内では一番好きな作家だったのでしょう。
‥‥という事に気がついた時にはもう遅く、
書店には当時、鮎川作品はほとんど置かれておらず、
古書店を定期的に漁るはめになり、それでもかなり手元に集めました。

それが最近、光文社文庫の新刊で時々復刊されているんですね。
手持ちの分と重複してないか、毎回ドキッとします。
近年のミステリはもはや異種格闘技状態、なんでもアリなので、
安心して謎解きに挑める正統派はラベルを貼って大切に保護しなければ。

ところで、先日古都の踊り狂う国立大学生のネタを書いた時、
名探偵なのに温厚な先輩と、美少女と一緒にサークル旅行で
謎に巻き込まれるなんて夢のような青春、同じ古都の大学でも
名門私学は雰囲気が違うなあ、と書こうかと思って、
でも国立大生も推理小説研究会が孤島でデビューしているし、
と思って書かなかったけれどやっぱり書いてしまいます。

今は男性の長髪なんて当たり前ですが、江神先輩初登場
(『鮎川哲也と13の謎』シリーズに選ばれた『月光ゲーム』)の頃は
たしか流行の境目で、わざとちょっと時代遅れな感じの長髪を
性格に奇矯さの無い探偵さんの、個性としていたような記憶があります。
『月光ゲーム』の副題は「Yの悲劇’88」、
うわー、永遠の大学生達、もう二十年以上経っちゃったんですね。

それでも、次回シリーズ最終作でも、『読者への挑戦』は必ずお願いします!
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by otenki-nekoya | 2011-03-28 17:08 |

後方

窓の下を通っていく小学生男子が、
友達の問いに大きな声で答えています。
「はいぃ〜い?」
『相棒』の右京さんの真似ですね。
どれだけ刑事ドラマが好きなんだ、君。

使用プロバイダに溜まったポイントが義援金にかえられるというので
なるほどと思い、どれがどのパスワードだと混乱しながら落としました。

なんの足しにもならないと判っていますが、水道栓の僅かな水漏れを止めようと
替えのパッキングを買いにホームセンターに行ったところ、
レジの募金箱に投入口が二つありました。
一つは東北向け、もう一つは県内の漁協向けになっています。
これだけの距離がありながら津波は届いて、一部地域の産業を壊滅させました。

連れが属する職能集団から振込要請が来ました。
それは義援金ではなくて、現地での活動資金ですか。
なるほど、そういうものも必要ですね。
人員も募集していませんでしたか。
「あったあった、現地で活動を希望する人は、って」
寒冷地仕様の者でなければ、いくら腕が良くてもお邪魔になりますが。
「そういえば会合が流れたんだけど、主催担当見て納得した」
本当だ。この面子だと、交代で現地入りしていますね。
「地元は相当手薄になってるけど」
緊急車両やヘリや人員も全国から交代で出ている訳ですから、
手薄と言えば手薄で不安もありますが、地域の人は地域で守るので、
支援に行かれた方は後顧の憂い無く御存分に。
適切ではないかもしれないけれど、
銃後の守りという言葉が頭をよぎります。
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by otenki-nekoya | 2011-03-26 16:26 | 普段

背の高い警部補

窓の下を通っていく小学生男子が、
友達に大きな声で教えています。
「知ってる?『ハンチョウ』第四シリーズが
 四月十一日からあるんだよ!」
知らなかった。
そういえば御老公の今クールの旅も終わったんですね。
TVではこのごろ番宣すらやっていませんから。
それ以前にNHK以外あまりつけていなかった。

ハンチョウといえば数ヶ月前、原作本の新刊のポップに
『ついに美人刑事・水野登場!』と書いてあって、
今野敏の原作は読んだ事はないけれど、
ええっ、それじゃあ今まで安積班に美人刑事はいなかったのか、
TVドラマってずるいなあ、と思ったものの、

ガリレオ先生だってドラマでは相棒が美人刑事になってるし、
映画版グッチー先生なんて、本人がなんと美人女医になっちゃってるし、
映画版白鳥さんは榎さんだか加賀警部補だか区別がつかないし。

加賀恭一郎刑事といえば、新作も出て書店でシリーズキャンペーン中ですが、
もう十年くらい前、NHKで東野圭吾の『悪意』をドラマ化した時、
これも加賀刑事が出ているんですが、ドラマではなぜか役名を変えてあって、
(外見のイメージがちょっとかけ離れていたせいかもしれない)
なんと先頃世界一周走破したカンペイちゃんが演じていました。
ドラマ内での通称「浪速のコロンボ」、
とにかく走って走って、とにかく根気強い刑事さんでした。

ちょうどその裏番組が当時はイケメンという言葉はなかったけれど
とにかくイケメン四人揃い踏みの『西洋骨董洋菓子店』で、
後の加賀警部補で厚労省の白鳥さんは
サングラスにギャルソンエプロン姿で出ていて、
皆こぞってそっちを見ているのに、私は『悪意』の方にくぎづけでした。

犯人の青年役の役者さんが、見た事のない人だったけれど、
なんというか見た事のないような印象的な演技をする人でした。
さすがにドラマでは犯行動機は和らげられていたけれど、
原作の構成の元になっている「文章の虚構性」が、
映像にきちんと置き換えて表現できていたと思います。

その犯人の青年役の役者さんが、実は舞台の人で、
その後あらゆるドラマに出ては器用にこなし続け、
いまや御老公が水戸でお休みの間、
毎回御留守居役をつとめるハンチョウ、
安積警部補にまでなりました。
ほら、最初につながった。
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by otenki-nekoya | 2011-03-23 14:29 |

待っていて

ベランダのローズマリーを夕食に使おうとしたら
全ての枝が淡い青紫か
濃いピンクの花で埋め尽くされていて
折り取れる枝がありませんでした。

いつのまにこんなに。
そのまま身を乗り出して下を眺めたら、
秋には紅い花の筋のできる川岸に
ぽつぽつと灯が点るように黄色い花が。
どこからか種が散らばった菜の花です。

当然といえば当然でした。
もう彼岸なんだもの。

山から直撃する杉花粉がすごいので
日中はなるべく外気に触れぬよう、
道中は帽子もま深く被ってうつむいて
ずっと過ごしていました。

翌日、雨降りの間合いに外に出て
帽子を取って見上げます。
雨を含んだ桃の花が色とりどりにずっしりと咲いています。
柳の浅い緑が霞のように芽吹いています。

今年は遅かったけれど
今年は気がつかなかったけれど
春は来ていたんだ。

少しずつ、少しずつ、
けれど間違いなく春は向かって行きます。
北へ。
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by otenki-nekoya | 2011-03-21 13:35 | 散歩

いつか日常を取り戻す日まで

このあたりでは町中の電信柱をはじめ至る所に、
小さなプレートが取り付けられています。
「ここは海面から6メートルです」
「ここは標高7メートル」
表示の仕方は地区によって少し違いますが、意味は同じです。
海に気をゆるしてはいけない。

うちから数百メートル先の海岸の警報も
やっと注意報レベルにまで下がりました。
これほど震源から距離があっても、湾の方角によっては
実際に届いて被害をもたらしているのが‘Tsunami’の恐ろしさ。

この近辺は海岸の方角の関係で無傷でした。
毎日横を通っているはずの自転車置き場隣の
電信柱のプレートをあらためてよく眺めてみます。

「ここは標高5メートルです」
その表示の下に、防災マスコットキャラクターの赤い服の女の子が
「ここはあぶないわ!高い所ににげて!」と叫ぶイラストと、
「予想される津波は6〜9メートル」という青い文字が印刷されています。
こんな事が書いてあったんだ。

正直、私達の方が先だと思っていました。
港を持つ、海に向かって開けた町というのは似ています。
山々の間を川が拓いた扇状地などの平野は、
そのまま水のない低い川底のようなものです。
アクセスは海岸沿いの道しかない事が多い。
消え去ったいくつもの町の映像はまるで
わが町のなるはずだった姿を見るようでした。

豊かな糧、温暖な気候、冬の晴天をもたらしてくれる美しい海は
計り知れぬ恐ろしい力を水底に押し隠している。
細々とした生き物の都合等、大地と海には関係ない。
わかっている、と思っていました。
みんなわかったうえで、海と共に生活している、と。
それでも。

未だ数さえ知れぬ多くの方々の御冥福をお祈り致します。
命を守り抜けた方々が、暖かいものを食べられて、暖かく夜を過ごせますように。
首都圏の皆さんも、直撃は免れたもののある意味サバイバーです、
ご不自由でしょうが無理をなさらず、大切なものを守ってください。

このへんは暖房なんてなくても死なない、
電気はどんどん東へ分けてあげて、と思っていたのですが、
日本は東と西では電気の周波数が違う、という
簡単で不条理な事実に愕然としました。
だからこうして少し電気を無駄遣いしています。
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by otenki-nekoya | 2011-03-13 16:40 |

踊る阿呆を読む阿呆

一時日本中を揺るがせた携帯使用不正入試事件、
当初報道された大学名と投稿された問題数を見て
これは経済的に困窮している受験生ではないかと思い、
残念な事にその予想は当たっていました。

本来ならば湯川博士を始め
世界有数の頭脳を産み出した古都の旧帝国大学。
多くの著名な小説家も輩出し、
いわゆる「新本格」推理作家達や
現役学生芥川賞受賞のころは
衒学的で耽美的な雰囲気を感じましたが、
最近は二人の人気作家の登場のおかげで
イメージががらっと変わってしまいました。

おそらくは大誤解であろうと思われますが、
一抹の真実を含む可能性のある共通イメージとは、

kyo大生は全身全霊を込め、阿呆な踊りを踊り狂う。

以前仕事場で、二十代のスタッフに
「レナウンってなんですか?」と問われました。
レナウンは大手の衣料品メーカーですが、貴女の問いたい事は判る、
だが私がここで実演する事は適わないので、
ウェブの動画投稿サイトで昔のTVCMを探して下さい。
「そんなに有名なものなんですか?」
年代的には知らなくて無理は無い、
だから小説の中では代々先輩から伝えられている訳で。
「どうも大笑いする場面らしいんですが、わからないのが残念なんです」

大真面目にイエイエ踊りの知識を求める彼女は、
もう一人の作家の描くkyo大生が、
青春の全エネルギーを無駄に注ぎ込んで都大路をひた走り、
追い求める黒髪の乙女を彷彿とさせるキャラでもあります。
いっそ、共に詭弁踊りを踊ろうではありませんか。

その彼女が「これ見て下さい、すごいです!」
と持って来て見せてくれたのが『赤ずきん』(フェリシモ出版)
‥‥いしいしんじの。
おお!これがかの赤ずきん!
私はちょうど雑誌に連載されていたいしいさんのエッセイで、
エッセイといってもどこまでが現実かわからない不思議身辺雑記ですが、
イラストのほしよりこさんと一緒にお話作りをしている回を読んでいました。
こ、これは凄い。
「すごいでしょう!」
傑作です。
やさぐれた赤ずきんの絵本に盛り上がる我々を、
隣の席の常識的なスタッフが、意味不明、という表情で見ています。

kyo大に在籍すると古都の呪いによって
かなりの確率で法螺吹きになるのでしょうか。
親族のkyo大出身者は寡黙で真面目な、冗談一つ言わない
いかにも学者、だったので気がつきませんでしたが。
意外にも、現在放映中のNHK土曜ドラマ「Taroの塔」で
大阪万博のプロデューサーに岡本太郎を推薦した小松左京
(キャストがカンニング竹山さん)もkyo大だったのですね。
いしいさんはkyo大時代、一番面白かった講義が
森 毅先生の数学だった(仏文科なのにもぐりこんだ)と書いていますが、
後輩二人は一体勉強しているのか、という学生生活を描いた挙げ句、
kyo大生に関する大誤解を世間に振りまきつつ、
揃って売れっ子作家に成りましたので、めでたしめでたし。

今の大学生は阿呆踊りをするどころか、就活で手一杯で
三年生にしてはや先行きを悲観して大勢を巻き込む事件を起こす程
追いつめられる者まで出て、なんとも可哀想です。

と、ふとTVを見ると、
チェックにリボンのAKBの可愛い衣装に身を包み、
全身全霊を込めて「ヘビー・ローテーション」を踊り狂う
都の西北W大生の姿が。

ああ、やはり大学生は浮き世の全てを忘れ果て、
このように阿呆に踊り狂うてこそ。
いじらしくて目頭が熱くなります。
親御さんも涙している事でしょう。別の意味で。
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by otenki-nekoya | 2011-03-09 21:26 |

「旅人」を探す

湯川先生の本が読みたいな。
ガリレオ先生の名推理じゃなくて、
日本人初のノーベル賞受賞者・湯川秀樹博士は
文章にも優れていたと伺います。

教育テレビで水曜夜10時25分から放送の
「こだわり人物伝」先週からは湯川先生で、
頭の中でまだ素粒子が飛び交っているのでこれは丁度良い、と見ました。

番組のガイド役が湯川先生に六年間師事した事のある、
面白発言で人気のノーベル物理学賞の益川先生。
京大に残されている湯川記念館の中の
今は整頓された湯川先生の部屋の本棚の前に立ち、
献本だのなんだのが床の上にも山積みされて
当時の印象を益川先生曰く、一言で現わすと「古本屋」‥‥。

自宅に山とあった古今の漢籍を就学前から読みこなした
湯川少年の様子を番組では自伝『旅人』から引用して
‥‥『旅人』!ああっ!忘れてたあっ!
去年、南部先生の『クォーク』(講談社ブルーバックス)が
素粒子の歴史本としても面白かったので、
湯川先生の名高い自伝も読まなければ、と思いつつ、
今の今まで、忘れていました。

丁度新聞の書評コーナーの新刊案内で、
『旅人』が角川ソフィア文庫で出たそうなので、
近所のTUT▲Y▲に走りましたが、見つかりませんでした。
とりあえず、忘れないように書き留めておきます。
「こだわり人物伝」はシリーズ全四回。
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by otenki-nekoya | 2011-03-08 16:52 |

銅像を哀れむ

ベランダから、公園のまだ葉の落ちたままの枝越しに
銅像と記念写真を撮る観光客が見下ろせます。
引っ越しして来た当時は「なんだこの偉そうな銅像」と思いましたが、
最近になって観光客が「会えた会えた」と喜ぶ姿を見ていると、
銅像もキャラクターが伴えば魂が宿るものなのだ、と思います。

イスラム社会では偶像崇拝がないので、
アラビア文字の書かれた書の像を市民が破壊する映像が
独裁者の銅像を引き倒す代わりになっていたのが、
人型ではないので象徴的なような象徴的ではないような。

地方紙日曜版の書評欄に取り上げられた銅像本の中で、
伊藤博文の銅像は引き倒されて市中引き回し、とありました。
レーニン像じゃあるまいし、いつの事、と思ったら
全国紙の書評欄にも同じ本が取り上げられていて、
日露講和条約の締結を不満とした群衆によって、とありました。
みんな当時知らされていなかったから。
薄氷を踏む戦と外交だった事を。

昔、萩の資料館へ行った時の事です。
一国の宰相ともなった地元の偉人を、
まるで嘲るかのような説明書きに愕然とした事があります。
確かに、桂さんや高杉さん宅はまだお城下のうちにあり、
伊藤宅は町から完全に離れた百姓屋ですが、
低い身分からトップに成った事は郷土の誇りではないのか。
おそらく解説を書いた人物は毛利の殿様のお側近くの、
本来なら高い身分の士族であったものが、
新政府に、卑しい身分の伊藤ごときに、と
裏切られ取り残されように感じていたのかもしれません。

昨年の大河ドラマでは脚本家が山口出身のせいか
幕末の長州の立場がこれまでになく描き込まれていましたし、
今では地元でももっと前向きに維新を
とらえているのではないかと思いますが、
白壁の武家屋敷とともにかつての上級士族の怨嗟が
百年以上そのままところどころにわだかまったような
不思議な気配の残る町でした。

年末大河ドラマ「坂の上の雲」第一部で、
「奇兵隊の下っ端の頃、高杉さんに怒鳴られた夢をいまだに見る」
と伊藤首相が心細げに語るシーンがありました。
聞き手が陸奥宗光だったので、自分も海援隊時代の夢を見る、
とでも返してあげればいいのに。
もっとも坂本さんに怒鳴られる夢など、陸奥はみないでしょう。
などと思った翌年、メイン大河では若くて小癪な陸奥陽之助と、
実は英国帰りの伊藤俊輔が井上聞多とペアで地味に登場していました。

年末大河第二部では今度は、日露開戦をどうにかして避けたいのに
思惑がことごとく不首尾に終わる伊藤さんが気の毒で、
このうえ銅像市中引き回しの上暗殺、しかも隣国では今でも大悪人、
千円札になった事もあったけれどたぶん若い人は知らない、
大勲位公爵、あまりに可哀想。

連れが言いました。
「何か名言でも残せればよかったのに」
名言?
「板垣死すとも自由は死せず、みたいな」
板垣さんはその後も長生きしてますよ。
男子の本懐である、とか。
「それ誰だっけ」
ライオン宰相、濱口雄幸。
「どっちも土佐人だね」
そう考えたら長州人ってあんまり大口はたたきませんね。

あ、有名な「動けば雷電の如く 発すれば風雨の如し
衆目駭然として敢えて正視するものなし」の評は
伊藤さんの言葉だそうですよ。
「誰の事」
だから、高杉さん。
「ドラマの高杉さん、ものすごく格好良かったなー」
♪三千世界の〜 カラスを殺し〜
「なにそれ」
都々逸です。高杉さん作と言われてるけど、桂さんかもしれない、

‥‥じゃなくて。
伊藤さんの話だってば。
やっぱり、お気の毒です。
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by otenki-nekoya | 2011-03-07 15:55 |

遠くへ

触れるか触れぬほどの目に見えぬ雨ですが、
じっとしていると濡れる事にちがいはありません。

黒詰め襟の少年達が物憂そうに喋っています。
「昼から卒業式って、たるくね?」
そうか、今日は卒業式ですか。
あいにくのお日和ですが、埃っぽく乾いた空気の中の
花粉やウィルスや灰や砂が落ちて、
かえって清々しくむかえられるかもしれません。

海と空との境目が雨ですっかり消えてしまって、
ふりむくと背後の山もすっかり消えてしまって、
ぽかんとした何もない白い空間に居るような
こころもとなさです。

「俺、最近、目がちょー悪くなって」
少年達はぽつぽつと話をしています。
「こうやっても、あんま見えん」
眼鏡は、と友人が問います。
「めんどい」
コンタクトは、ともう一人が言います。
「よけいめんどい」
君のはモニタの見過ぎでしょう。

時々、遠くの山を見なさい、と
小学校に入ってすぐ眼科の先生にいわれました。
本ばかり読んでいないで。
目をあげればいつもあるはずの山も今日はありません。

砂浜に打ち寄せる波が見えます。
すっぽり世界を覆ったなにものかの白いレースの裾が
目の下で翻るようです。


昼になると、雨はあがりました。
空気はしっとりと浄められ、卒業式にはぴったりです。
山も海も街も、くっきりと甦りました。
皆、あの山を越えて、この海を越えて、
この街を離れてお行きなさい。
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by otenki-nekoya | 2011-03-01 19:14 | 散歩
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日記


by otenki-nekoya
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