人気ブログランキング | 話題のタグを見る

narcia

nekoya2010.exblog.jp ブログトップ

黒幕はいらない

今年の某公共放送大河ドラマでは、
京都での政治的な場面や事件の進行はほぼ
半藤一利先生の『幕末史』(新潮文庫)の描写に即しています。

武力倒幕に驀進する薩摩が、いわば悪役です。
「西郷さんのファンはいやじゃないのかな?」
いや、いいじゃないですか、黒西郷。いやあ、強くて凄くて、黒い。
これまで大久保さんに押し付けられていた薩摩のダークサイド、
やっぱり日本一恐ろしい男(海舟:談)に担ってもらわないと。

「坂本さんは残念でした」
「大義のため、ごわす」
(こんな場面はありません!)

今年の大河ドラマでは、三年前の大河ドラマの主人公は
会津藩士の視点では、水面下の見えない存在として扱われています。
さしもの幕末ヒーローも、今回のドラマの中では
会話の中で名前が二回、後ろ姿が一回出ただけでした。

実際には彼は長崎で会津の家老の息子、
修理様と面会していますし、
銃の買い付けに苦労していたあんつぁまも、
海援隊の羽振りの良さを苦々しく見ていた事でしょう。
なにより京都の治安を守っていた京都守護職関係者が
天下のお尋ね者を知らない訳はないのですが、
なにしろヒロインの出番がないほど京都が忙しいので。


それでもドラマのタイミングに合わせ、
某公共放送「歴史秘話」番組は、
いわゆる幕末最大ミステリー「龍馬暗殺」を取り上げました。

ネタ元は、磯田道史先生の『龍馬史』(文春文庫)。
もちろん実行犯は御存知佐々木只三郎率いる
京都見回り組で確定ですが。

長岡藩士の子孫の半藤一利先生は薩摩黒幕説でしたが、
その半藤先生が文庫の帯に敗北宣言をしています。
「暗殺の謎が解かれ、この本が『定説』となるだろう。」

磯田先生は古文書速読名人、
つまり当時の人の手紙や日記を
かたっぱしから直に読めるという強みがあります。
ただ書き手の見方や思惑というものがあるので
その中から「事実」だけを積み重ねて行くと‥‥。


私自身は学生時代、
初めて司馬遼太郎の人気小説を読んだ時、
あまり主人公に好感が持てませんでした。
世間はこれこそ理想の男ともてはやすけれど、

武士の風上にも置けぬような輩ではないか。
‥‥我ながらどれだけ旧弊な学生だったんだ。
まるで京都見廻組のようです。

本質的に武士ではなかったからこそ、
武士の世を終わらせる事が出来るのだ、と
その力に気付いたのはずっと後の事でした。

大河ドラマ『龍馬伝』の最終回、
血刀を下げて近江屋を出た佐々木只三郎
(現・猿之助、当時は亀治郎、がゲスト出演)が
絞り出すように叫びます。

「奴は、我等の全てを無にしたのだッ!」

誰に命じられようが関係ない。
しいていえば。
天が、命じた。
by otenki-nekoya | 2013-05-15 22:18 |
line

日記


by otenki-nekoya
line
クリエイティビティを刺激するポータル homepage.excite