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あの座敷で

三月から四月になる頃
覚め際に夢を見ました。

 私は薄い紙を手にしている。
 十センチ四方程の赤い背景の中に白い卵型の女の顔がみっつある。
 正面を向いた女は目を閉じ、重ねた両手の上にあごをのせている。
 一人は薄く口を開け、一人は口を閉じ、違う方を向いている。
 もとの絵からこの三人の顔の部分だけを切り抜いたのだろう。
 他の人物の腕や衣類らしき部分も混じっている。
 階段に緋毛氈を敷いて数人の女性を配置した日本画であるらしい。

 女の顔の細い描線と緑がかった白い顔料から日本画だと思ったのだ。
 鮮やかな赤と白い楕円の対比は、マティスの画のようにモダンでもある。
 紙片を裏返すと、小さな活字がぎっしりと印字されている。
 新聞の切り抜きなのだ。

 全体図を見たいと思い、顔を上げる。
 向かいに坐った友人が、目を伏せる。
 さっきまで、絵に見入る私を見ていたというのに。
 私が言葉を発する前に、友人はことさらなにげない事のように言った。
 「君は見なくて良い」

 そのとき、さっきまで座敷にだらしなく寝そべっていた男が
 まっすぐ起き上がってじっとこちらを見ているのに気付いた。
 私ではない。腕を袂で組んでうつむいた友人の後頭部を見ている。

 そしてまるで幼い児のように強く口を引き結び
 大きな瞳から涙が零れるのを耐えるような表情で

 ──見ている。
 友人の記憶の中にある、私の知らないこの画の全体像を。


 私は、目が覚めかけている事に気付いた。
 私はこの座敷を離れて、「私」ではない私に戻らなければならない。

緋毛氈だと思ったあの赤い背景は本当は。

目覚めた私は思います。

久しぶりだったなあ。
私が「私」になったのも、あの友人達に、あの座敷で会ったのも。

日本画は、TVで見かけた、
何十色ものパステルのようにガラス管に詰めた
携帯用の岩絵の具に心惹かれたせいでしょう。

懐かしい三人組が出て来たのは、昔皆で書いた長い長い文章を
最近になっても楽しんでくれている人が居る事を知ったため。

あの当時鮮烈なデビューを果たし、
皆が読んだミステリ作家の訃報が
三月の終わりにネット上を流れ、
翌日の新聞に載りました。

悼んでいたのです。
あのあさ、あの座敷で。
新聞紙をハサミできりぬいて。
私達は皆で悼んでいたのです。
by otenki-nekoya | 2013-04-18 22:35 |
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日記


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