あの学者先生ですかい
ドアを開けた瞬間、連れが
「ふぁうすとあるよね」
と、言いました。
えーと‥‥何がどこに。
「『ファウスト』、持ってるでしょ」
ああ、はい、‥‥え?読むんですか?
なんで今?
以前ゲーテの『ファウスト』の話をしたのは、
ユーロ危機のふぁーすと・いんぱくとの直後だったと思います。
希臘人と独逸人の話題で思いついたのです。
古代ギリシャの絶世の美女ヘレンを手に入れても
幸せになれなかったファウスト博士が、
心から満足したのは、何をした時だったでしょう。
「満足?」
最後に、つい、ある瞬間に向かって呼びかけてしまうでしょう。
『とまれ、お前はいかにも──』
その刹那。
連れが目と口を大きく開いたまま
石像のように動かなくなってしまいました。
思わず心の中で叫んでしまいます。
めふぃすと、ふぇれーーすっ!
──何でしょう。
私は、お前と契約した覚えはないよ!
──そうでしょうとも。こちらとしても得る物がまるでありゃしない。
そちらにいらっしゃる先生とならば、喜んで賭けを致しますが。
何を性懲りも無く。以前あれだけの骨折り損をして、
このお方の魂だって、お前なんぞの手に入るものか。
「‥‥おぼえてない」
あ、動いた。
目を瞬かせて、心底驚いたように連れが呟きます。
「全然、覚えてない。読んだ事は覚えてるのに、全く記憶にない」
それはまあ、別によくあることです。
「すごいなあ、こんなにきれいに忘れるものかな!」
忘れますよ。
正月休みの最後の日、
寒風に吹かれながらスーパーの店頭で
そんな立ち話をしたのでした。
実を言うと、私も最初に『ファウスト』を読んだ時には、
その有名な『瞬間』に、ちょっと拍子抜けしたのです。
なんだ、そんなあたりまえな事か、と。
独逸人は真面目だなあ。
なるほど、そんなものか、と納得できるようになったのは
それからずっと後、何年も人間をやってからの事でした。
そんな訳で、ものすごーく古い本ですが。
「‥‥ホコリがたちそう」
それより。昔の文庫本って、文字が。
「うわーっ、字が小さい、字が詰まってるっ」
読みますか。
「読む。貸して」
どうです。
「悪魔じゃなくて、睡魔に襲われる」
やっぱり、最新の読みやすい版を買いましょう。
「ふぁうすとあるよね」
と、言いました。
えーと‥‥何がどこに。
「『ファウスト』、持ってるでしょ」
ああ、はい、‥‥え?読むんですか?
なんで今?
以前ゲーテの『ファウスト』の話をしたのは、
ユーロ危機のふぁーすと・いんぱくとの直後だったと思います。
希臘人と独逸人の話題で思いついたのです。
古代ギリシャの絶世の美女ヘレンを手に入れても
幸せになれなかったファウスト博士が、
心から満足したのは、何をした時だったでしょう。
「満足?」
最後に、つい、ある瞬間に向かって呼びかけてしまうでしょう。
『とまれ、お前はいかにも──』
その刹那。
連れが目と口を大きく開いたまま
石像のように動かなくなってしまいました。
思わず心の中で叫んでしまいます。
めふぃすと、ふぇれーーすっ!
──何でしょう。
私は、お前と契約した覚えはないよ!
──そうでしょうとも。こちらとしても得る物がまるでありゃしない。
そちらにいらっしゃる先生とならば、喜んで賭けを致しますが。
何を性懲りも無く。以前あれだけの骨折り損をして、
このお方の魂だって、お前なんぞの手に入るものか。
「‥‥おぼえてない」
あ、動いた。
目を瞬かせて、心底驚いたように連れが呟きます。
「全然、覚えてない。読んだ事は覚えてるのに、全く記憶にない」
それはまあ、別によくあることです。
「すごいなあ、こんなにきれいに忘れるものかな!」
忘れますよ。
正月休みの最後の日、
寒風に吹かれながらスーパーの店頭で
そんな立ち話をしたのでした。
実を言うと、私も最初に『ファウスト』を読んだ時には、
その有名な『瞬間』に、ちょっと拍子抜けしたのです。
なんだ、そんなあたりまえな事か、と。
独逸人は真面目だなあ。
なるほど、そんなものか、と納得できるようになったのは
それからずっと後、何年も人間をやってからの事でした。
そんな訳で、ものすごーく古い本ですが。
「‥‥ホコリがたちそう」
それより。昔の文庫本って、文字が。
「うわーっ、字が小さい、字が詰まってるっ」
読みますか。
「読む。貸して」
どうです。
「悪魔じゃなくて、睡魔に襲われる」
やっぱり、最新の読みやすい版を買いましょう。
by otenki-nekoya
| 2012-09-15 22:14
| 本