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江戸の小咄

昭和のお父さんは、仕事の時は洋服で、
自宅では和服で寛ぐ人も多くいました。
「サザエさん」の波平お父さんスタイルですね。
原作漫画ではマスオさんもおうちに帰ると
スーツにネクタイから着物に着替えています。

うちの父は古い和室で和服のうえ、煙草盆と煙管を傍らに、
布張り箔押しの江戸の本を眉間に皺を寄せて読んでいて、
これはもう昭和の人じゃないだろう、という様子でしたが、
同じ格好でハヤカワポケミスのSFも読んでいました。

江戸の本といってもお気に入りは
『甲子夜話』(松浦静山のエッセイ集、お殿様は変な話が好きだなあ)、
『耳嚢』(根岸鎮衛のエッセイ集、お奉行様も変な話が好きだなあ)、
『和漢三才図会』(画入り百科事典、正確で科学的な描写の中に、
         あり得ないモノも混じっていて可笑しい)、
『豆腐百珍』(豆腐料理のレシピ本、確かに父は豆腐好きですが、
       実際に試した事は無い)
といった、軽くてどこからでも読めて情報満載の面白本ばかりでした。

『江戸小咄集』といったような、一話数行から一頁足らずの笑い話を
ずらずら並べて、文中に番号をふって注釈をつけた本がありました。
さすがに軽妙で滑稽で、有名な落語のサゲの部分になった話等もあります。
しばらくは頻繁に出て来る「原文ママ」という
言葉の意味が分かりませんでしたが。

ずっと読みふけっていると、親が目を丸くして
「それ、おもしろい?」と聞きました。
しまった、小咄の中には艶笑ネタなども結構入っています。

「面白いよ!番頭さんが『だいぶ日が長くなったようだ』というので、
表に出てお日さまを見た丁稚さんが『いや長くない、まだ丸い』だって!」
と、間髪入れず、無邪気な話を読み上げてみせました。

今にして思えば、あれは大人の本を読んでいた事を
とがめられたのではなかったようです。
十の子供が、江戸の話を原文のまま読みふける姿が、
相当異様だったのでしょう。

此の親にして此の子有りと謂ふ可き也。
by otenki-nekoya | 2011-06-02 16:55 |
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日記


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