narcia

nekoya2010.exblog.jp ブログトップ

電話ぼっくす

映画の予告カットを見た連れが、「持っている?」と尋ねるので、

『ソロモンの偽証』(宮部みゆき/新潮文庫)の第一巻を渡しました。


「昔の中学生だー。携帯持ってない」

読みはじめた連れは、安心したように言います。


「電話ボックスって、どんなものか思い出すのに時間がかかったよ。

そういえばあったねえ」


透明な壁に囲まれて

扉は内に引き込まれ

夜には電燈が点いて

そもそも名前が不思議です。


思い浮かばない人も多くなった事でしょう。

冒頭の場面です。

丁寧に読むのは良い事ですね。


全六巻ですが。



[PR]
# by otenki-nekoya | 2015-03-01 21:56 |

水底の魚

寒いので魚が美味です。


「ホウボウってこんなに味が良かったっけ!」


ホウボウだと判りましたか。

判りますよね。

大きな頭と翼のような極彩色の鰭と脚のような鰭がなくても

赤い三角錐のような胴体でその正体は知れる。

このへんでは鯛漁の網についでにかかる魚なので、

気の毒な程安価です。


「ソースがすごく合ってるよ」


骨ごと調理すると出汁がおいしい。

塩をした魚の背の両面に焦げ目をつけたあと、

フライパンの隙間に切ったトマトを敷いて、

蓋をしてじゅわっ、と蒸します。

皿に載せてオリーブオイルEXVを垂らして

刻んだパセリとディルをたっぷりふりかけます。


いわばアサリなしのアクアパッツァ。

トマトはこのへんの園芸農家から出る

規格外のフルーツトマト。


冬と春の出会いの一皿、

年中作れるけれどこの旨味はこの時期限定。


寒さはそろそろ底をうつようです。

日がみるみる長くなってゆきます。



[PR]
# by otenki-nekoya | 2015-02-07 21:50 |

□□ゑ、浮上

*昔のお仲間への告知です。

 変ですが、符牒ですのでご心配なさいませんよう。



水面がざわめいている。


ざわめいていて当然だ。

海なのだから。


湾の中といえども

波も寄せればうねりもたつだろう。


海の底深く沈んだ神殿が浮かぶ兆しなどではありえない。


そう思い続けていた。


呼び声はもう届かない


──それなのに。


遠く深く見えないところの動きを

水が伝えて波となり足を濡らす。

風が伝えて声となり耳を打つ。





昔々我々が蒔いた遊びの種が、

新しい人々の新しい技によって再び花を開いていたのです。


さあ──ご覧なさい。お聞きなさい。

忘れられた詞『□□の□び□』によって求めるのです。

さらば──開かれん。



 関係者のみなさまへ



[PR]
# by otenki-nekoya | 2015-02-02 22:57 |

初神者

書店に行っていた連れが

「『古事記』を買って来た」


ええっ、確かに今、池澤夏樹の新訳

(日本文学全集01/河出書房新社)が人気ですが。

「ああそれ、店頭に山積みになってたね」


しかし、いままで神話はもちろんファンタジーは

まったく読まなかった人がいきなり

神の名の羅列に挑戦するのは大変ではないでしょうか。


「だいじょうぶ!買ってきたのは『ビギナーズ・ラック』だから」


‥‥『ビギナーズ・クラシックス』(角川ソフィア文庫)ですね。


[PR]
# by otenki-nekoya | 2015-01-11 21:58 |

みな人倫を明らかにする所以なり

今年の某公共放送大河ドラマは

番宣では「ホームドラマ」としていたので

ちょっと期待薄になっていたのですが。


「さすが長州だ!学問から入った!」


策略から始まる薩摩と揺れる幕府『篤姫』、

暗殺に始まり暗殺に終わる土佐『龍馬伝』、

滅びるのがわかっている会津『八重の桜』、

いずれも幕末ものは面白かったので、

人材豊富な長州には特に頑張ってもらいたいものです。


文字が空中に浮く演出が『蟲師』や『シャーロック』みたいですが、


 人性の善なるは、なお水のひくきにつくがごときなり。

 人、善ならざることあることなく、

 水、くだらざることあることなし。


一緒に歌おう、ではないですが、思わず『孟子』を唱和していたら、

いきなりヒロインに負けました(訳はドラマ版とは異なります)。

 

 痒とは養なり、校とは教なり、序とは射なり。

 夏に校と曰い、殷に序と曰い、周に痒と曰い、

 学は則ち三代これを共にす。


初回は「本」をめぐる話で、なかなか良かったです。


「子役達も、姿勢まで良く似せてあったねー」

山鹿流に「赤穂浪士か!」と突っ込んだら、ちゃんと

明倫館で「赤穂義士」の戦略について講義している声が入ってました。


ラストには良い意味での「そうせい公」が出て来て、

「この騒ぎは何の記録にも載せぬ」と、

フィクションのストーリーである事を

わざわざ念押ししていくのも笑えました。


しかし連れがドラマを見ながら

「あ、本を捨てた!」

「また本を捨てた!」

と叫ぶのですが、叱っているのではなく、

「捨てる」というのは地方語で「落とす」の意味のようです。



[PR]
# by otenki-nekoya | 2015-01-04 22:46 |

なないろの餅

色とりどりの餅が並んでいます。


赤(たかきび)、橙(黒糖)、黄(こきび)

緑(あおのり)、紫(紫芋)、白(餅米のみ)

豆入り(落花生)


いずれの餅もこのあたりで穫れた餅米に

このあたりの穀物などを搗き込んだものです。

あおのり、黒糖は隣村でつくられています。


たかきびは香ばしく、芋はほんのり甘く、

白餅ですら米の風味があって

どれも何もつけなくとも美味しい。



年の瀬、齢八十を越えた婆様が忙しい忙しいと、

落花生餅を連れのところに置いて行きました。

世話になった人達に配って回っているのだそうです。


婆様が育てた餅米と落花生で出来た餅。

どんな資料にもこの餅の事など

数値として記載されてはいないでしょう。


いわばヤミに生まれヤミを流れる餅。


正月早々私達はヤミの餅をうましうましと喰ろうております。



みなさま今年もよろしくお願い致します。


いえ、餅の事ばかりではなく。



[PR]
# by otenki-nekoya | 2015-01-02 22:19 |

魚群

たくさんの銀色の魚の腹がきらきらと光ります。


サバ、アジ、カマス、タチウオ、

どの魚もぴんと体を伸ばして

口の先から頭、胴、尾の付け根まで

ぎっしりとすし飯を詰められて。


人の集まりには姿寿司が付き物の土地です。

店舗の冷蔵ショーケースいっぱいに、

魚まるまる一本酢締めにして酢飯をつめた

豪快な寿司が数限りなく並べられています。


タチウオも同じように姿寿司だったら怖い。

タチウオだけは捌かれて光る皮を内側にして

いわゆるバッテラの形になっています。


[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-12-31 21:51 |

神の訪れ

駅の産直市で、一人の婆様が

知り合いに明るく声をかけています。


「クリスマスは来たかね!」


打てば響くように爺様が否定します。


「来るかえ!」


大勢の人でごったがえす産直市は

通路をふさぐ程バケツが並んでいて、

しきび、さかき、松、千両、南天、大輪の百合、

白梅、紅梅、蠟梅、小ぶりの紅白の葉牡丹などの

お正月のための生花が飛ぶように売れてゆきます。



市を出ると、駅のマスコットキャラクターの像が、

白い縁取りの有る真っ赤なケープを着ていました。


気付いた御婦人が、友達に

「みてみて、○○ちゃんがクリスマス!」


それを言うなら、○○ちゃんがサンタさん、です。

可愛く出来ているので、写真を撮っている人もいます。



お正月様は、準備をしてお迎えしなければ決して来ない。


それと少し似ているのかもしれません。

都会の風潮とは距離のあるこのあたりでは

サンタクロースでもイエス様でもなく、

「クリスマス」が訪なう神の一種なのかもしれません。



[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-12-25 21:57 | 散歩

クリスマスのこない町

祝日でも町は平常通りに働いています。

道は道路工事をして

海は漁船でいっぱいで

店はどこも開けていて


いつものスーパーに入っても

いつもどおり静かです。


ああ、そうか。

マニュアル通りにクリスマスの飾り付けはされているのに、

あふれるようなクリスマス商品も

賑やかなクリスマスソングもないのです。


そういえば、さっき横切った商店街もまるっきり平常通りでした。


うわついていない。


売り場の一部は小山になるくらい

真空パックのお鏡餅で埋もれていて

お正月商戦はうってかわってやる気満々です。


静かな店内で、赤ちゃんをだっこした

お洒落なお母さんが、お父さんの押すカートに載った

三歳くらいのお姉ちゃんを鋭く諭しています。

いや、諭されたのはお父さんかな。


お母さんは、今大人気のキャラクターの描かれた

ソーセージを冷蔵棚に戻しながら

「こんなものに踊らされたらいかん!」


すみません。

ながいあいだ踊り続けていましたね、私達。



[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-12-23 22:52 | 散歩

遠く見る

降る雪を見ています。


とても遠くから。


県下では平野部にも白いものが舞ったそうですが、

この里までは雪雲も届かぬようです。


日のいっぱいにあたる山々は

あちこちやわらかく色づいています。

一番奥の峯の上にかかった雲から

降りそそぐ雪が日に照らされています。


遠くの山のてっぺんに

短い白い虹が立ったようです。




昨日TVで、ノーベル賞受賞者の

帰国インタビューをしていました。

遠目にも、24金の本物のメダルよりも

メダルをかたどったチョコレートの金紙のほうが

ぴかぴか光っていました。



[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-12-17 22:16 |

ハコモノ

「市役所の人は大変だ」

地域イベントの手伝いに行っていた連れが言います。

何十年も続く恒例イベントに、選挙が重なってしまいましたからね。

準備が忙しいうえに、公共施設のいくつかは投票所になってしまって

代替施設を用意するのも難題だったでしょう。


「普段の日曜休日もほとんどないらしいよ」

そういえばこのあたりは天候が不安定な春夏よりも、

天候の安定した晩秋から真冬のイベントが多いです。


「正月は恒例の寒中水泳大会だから、毎年正月もないんだって」


‥‥そんな恒例ありましたっけ。

頑張れ地方公務員。業務内容は違いますが、

『腕貫探偵、残業中』(著/西澤保彦 実業之日本社)の

タイトルが思い浮かんでしまいます。




投票所になっている公共施設に行くと、

こちらの一挙手一投足に集中砲火的な視線が。

訪れる人が少なくて、皆さん待ちかねているのです。


全員の「ありがとうございましたー」の声に送られると、

新たに来た子供連れの女性に一斉に「いらっしゃいませー」

‥‥さすがにそれはないけれど、

集中砲火的な視線に若い母親がたじろいで私に尋ねます。


「ここ、○○○じゃないんですか?」

普段はそうなんです。

でも今日は投票所になっていて、利用できないみたいですよ。


この地区の外から、しかも初めて訪れたのでしょう。

小さな男の子がお母さんの手にぶら下がってくねくねします。

せっかく来たのに残念だったね、たのしみにしてたのかな。


[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-12-14 22:13 | 散歩

金紙のひみつ

いろとりどりの折り紙の中でも

金紙と銀紙は特別な存在でした。


全ての色の一番上にあって。

他の色と違ってぴかぴかひかって。


その大事な金紙を、

机の上から落としてしまいました。

ひらり、と縦になった金色の折り紙が

壁のコンセントをかすめる瞬間


小さなじっ、という音と白い光が閃きました。


床に落ちた金紙をみると、四角い紙の一角の、

光る部分と裏の白い紙がほんの少しなくなって、

薄い黄色の透明なシートだけが残っていました。


──アルミニウムは電気を良く通す。


引っ越す前の家での一円玉騒動を思い出しました。


金紙の先端が偶然コンセントの差し込み口に入り、

アルミが溶け、裏の紙は燃えたのだとわかりました。

窓に近かったコンセントより壁際の机の足下は暗いから、

小さな火花が散るのも見えたのです。


金紙って、透き通った黄色いシートに、

アルミかなにかの金属を薄く張って、

裏に白い紙を張ったものだったんだ。


ぴかぴか光る金色って、

ぴかぴか光る銀色+黄色だったんだ。


小さい三角の形に残った透明なシートは

なんだか黄ばんだような色で、

あまりきれいとは思えませんでした。


この体験のせいではないのですが、

その後小学校にあがって、

金色の賞をつけてもらう機会があっても、

あまりうれしくはありませんでした。


金色より銀色の方が純粋できれいだと思っていました。



物質としての価値は程なく教わりましたが、

それから何十年も経った今でも

「一番いい色」という言葉にはあまり納得していません。

それでも、首にかけられない金色のメダルは良いですね。


「首にかけられない金メダル?」


ノーベル賞のメダルです。



[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-12-12 22:06 | 普段

アルミでできている

五歳だったと思います。


私は当時住んでいた家の二階の窓辺近くに座っています。

遊びに来ていた数人の友達は部屋の真中を向いています。


窓の右側の壁にコンセントがあって、


どういうわけかわたしはそこから

めがはなせなくなっていました。


子供の視点は低い。

コンセントは目の前です。

そばに、一円玉がありました。


私の目には

コンセントの溝の厚みと一円玉の厚み

コンセントの溝の薄さと一円玉の薄さが

まるでおたがいひきつけあっているようで


軽い銀色の硬貨を縦につまんで

コンセントの差し込み口に──



ばし、と衝撃があってコンセントから白い煙があがりました。

友達が振り返ります。


私の指に残ったのは

まんまるの一部が半月型に消えて

まっすぐになった縁が黒い一円玉



手のかからない、大人しい子供でした。

なぜこんなコドモのいたずらをしたのか、

自分でもあっけにとられてしまいました。


ショートした時のショックよりも、

魅入られたように一円玉を差し込み口に運んだ、

時間にしたらほんの数秒の感覚が今でも忘れられません。



TVのドラマで主人公が同様の行動をとり、

電源を落として危機を脱する場面がありました。


昼間だったのでわかりませんでしたが、

あのときもたぶんブレーカーが落ちたのです。

それで一階にいた母が上がって来たのでしょう。


母が語気強く言います。


一円玉はアルミで出来ている。

アルミニウムは電気を良く通すのよ。



文字にすると、今の私のような言い方です。

気付かなかったけれど。

似ている。


[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-12-10 21:48 | 普段

オムレツって

「オムレツって、和食?洋食?」


連れの質問は常に純粋な質問であって、

決してなぞなぞやひっかけクイズではありません。


オムレットはフランス語ですが。

「フランス語なんだー。それで?和食?洋食?」


‥‥。



先日、連れの出張先のホテルの朝食が

見晴らしの良い最上階で。

「ビュッフェで並んだ料理を順番に取って行ったら」

料理人がその場でおいしそうなオムレツを焼いていたのだそうです。

「でももうスクランブルエッグとってたし」

皿に載せていて冷めないように、料理の最後で焼いていたのでしょうね。


「最後じゃないよ。そこからは和食の料理が並んでた」

もしや。

「洋食のコーナーと和食のコーナーの間で、焼いてた」

それで。

「和食と洋食のどっちなのかなーと思って」



オムレツはですね。


まず最初に。

卵を割ります。


[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-12-06 21:39 |

サイドミラーにあごをのせ

やわらかな色合いの山々の一番奥が

ひとつだけまっしろになりました。


重荷を下ろした風が里に吹き付けます。



助手席の窓を全開にした軽自動車から

茶色の細い腕が出ています。

腕じゃない、前脚。


サイドミラーにちょこんとあごを載せて

マメシバが車内から身を乗り出して

寒風にあたっています。


この身を切るような風が身を切らないのか。

さすがに毛皮を着ているだけの事はある、

でも窓を閉められないから運転手さんが寒い──


あ、逆なんだ。


急激な冷え込みに、人間は当然、車の暖房を入れます。

毛皮に包まれた、汗腺の少ない、容積の小さな生き物は


のぼせた。


だから、サイドミラーに頭をのっけて冷やしている。

最初からマメシバ専用台のようにサイズがぴったりです。


そのまま軽自動車は何事もないように

細い路地から大通りへ出て行きました。



[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-12-05 21:40 | 散歩

干し物をとりこむ

今日は水平線がはっきりとわかります。


空が暗くて海があかるくて。


空が暗いのは、あそこからあそこまで

雨が降っているからなのでは。

それもそうとうな大雨なのでは。

しかもこっちに来るのでは。


いつもの海産物干し場の横で、小走りになります。

干し場のみなさんもせわしげに魚介を取り込んでいます。


串を打ってぴんとまっすぐになった真っ白いスルメイカが

ずらずらずらずら道沿いに吊り下げられています。

小さいワイシャツの行列のようです。


[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-11-30 21:45 | 散歩

海鳥に似ている

海沿いの道のところどころに

県外ナンバーの車がとまっています。


水平線を見に来たのか。


日射しが暑いくらいの日和なのですが、

あいにく白く光る雲が空を覆い、

白く光る海とのさかいめは茫漠としています。


水平線はあのあたり──


指差した線よりだいぶ上を船が通ります。


‥‥まちがえた。


自分の居る高さによって違うので、

いつも見ていても水平線の位置を当てるのは意外と難しい。


連休ですが、月曜なのでたくさんの漁船が出て働いています。

かたまっているところに、お目当ての獲物がいるのでしょう。


黒い船団が、銀色の空を漂うようです。


[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-11-24 22:20 | 散歩

とび、とぶ、とべ

ベランダの上から下へ垂直に、

トビが腹を見せて舞い降ります。


そのまま地面より下まで飛び、

川面で折り返して垂直に、

背を見せて舞い上がる。


紙ヒコーキみたい。


再びベランダに接近します。


これが食べたいのかな。

小さなざるに広げたシラス干し。

いいにおいがします。


朝どれ釜揚げちりめんが余ったので、

ベランダで干していたのです。


でも、猛禽の嘴でシラスは食べられまい。

第一、こんなに人に近くても野生は野生、

餌をあげるわけにはいかないのです。



昔、祖父が庭でトビを放し飼いにしていました。

ピーピー、ピーヒョロ鳴くから名前はピーちゃん。


餌は豚のバラ肉で、全力疾走で食べに来ました。

飛べないのです。ヒナの時、巣から落ちて。



豚バラ肉は御馳走だけど、

君はそんなもの食べなくていい。


シラスをあきらめた若いトビは、

川の上に飛んで来た銀色に光る物をキャッチして、

もちろん空飛ぶ魚なんていないのでリリースして、

そのまま舞い上がって行きました。


風の強い日なのです。

川岸のススキの綿毛が時折雪のように

きらきら光りながら飛んでゆきます。



[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-11-18 22:08 | ベランダ

水平線のために

十月にはじまったTVドラマで

ヒロインが語る「野望」のひとつが


──水平線を見たい


島に囲まれた島の高校生なのです。


たまたま通りがかりにその台詞を聞いた連れが、

「このへんなら逆に」


──島を見たい


たしかに。

このあたりの海岸から見えるのは

山の他は海と空の水平線ばかりで、

いけどもいけども島影一つありません。


電車に乗ると、周りの乗客が

「わあ、地球が丸い!」と叫んでいるほどです。



前回、大学生になって島を出たヒロインが

旅先で水平線を見ながら

「はしからはしまで水平線っていうのが見たい」

と、少し野望を大きくしていました。


たまたま通りがかりにその台詞を聞いた連れは、

そのまま通り過ぎて行きました。



日曜の朝、いつも自転車で川沿いや海岸沿いを

走って来る連れの帰りが少し遅くなりました。


隣村の台地へ行ったのだそうです。

台地?登ったんですか?自転車で。


「登りきれなかった。途中で降りて来た」


自分の脚の力だけではなかなか辿り着けないでしょう、

てっぺんまでは


‥‥。

もしかして、見たかったのですか。


はしからはしまでの水平線が。



[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-11-16 22:42 | 散歩

あきのかぜ

ベランダから見下ろすと


センダンの葉が落ちて金色の実がずっしりとみのり

小さな川の水は澄み対岸の駐車場はがらんとして

ぽつんとまっさらな


──お墓が


蒼天から降りて来たように忽然と

秋風にみがかれたようにしらじらと


‥‥会社の駐車場に墓石?



何事かというと。

毎年十一月中旬の週末、お向かいの会社ではフェアを行います。


敷地いっぱいに金属ポールを組んだテント屋根を並べ

さまざまな飲食物や農産物や商品の出店を広げます。

川沿いの駐車場は臨時のフードコートとバンド演奏のステージとなり、

例年ならこのあたりでは一番気候の良い頃で、大勢の人が訪れます。


クレーンを使用するような展示商品は、

会場設営の前に搬入を済ませておかねばなりません。

例えばこんな‥‥墓石。



常になく冷たい秋風に吹かれ

ベランダからぴかぴかの墓石を眺めます。


『奥の細道』に秋風と墓の句がありましたね。

墓ではなく塚でしたっけ。


 塚も動け 我が泣く声は 秋の風

                  芭蕉



翌朝、『ゲラゲ▽ポーの歌』をスピーカーで流しながら

秋風の中向かい岸のフェアは賑やかにはじまりました。



[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-11-15 16:42 | ベランダ

天窓の月

雨の強い土地に雨の多い夏と秋だったので

明かり取りの天窓からたびたび雨が漏って、

頻繁に天井でぽた、ぽた、と音がします。

何度直してもらってもしばらくするとまた音がします。

継ぎ目のある、ちょっと凝ったデザインの屋根は

どれほど工夫を重ねても太刀打ちできない気候なのです。

なにしろ真横からも下からも雨が降るのです。


もうあきらめて、いずれ天窓はつぶしましょうと言う事になりました。

日中部屋が暗くなるので電灯を増やして。



夜、灯を消した部屋で天窓を見上げます。

擦り硝子なので素通しでは見えませんが、

満月がさしているのがわかります。

硝子の上の屋根の一画がぼうっと白く光っています。


目が慣れてくるにつれてますます明るくなります。

壁に窓のない部屋の中に月光がふりそそぎます。

フローリングに白い光が反射しています。


閏九月、立冬の満月です。



[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-11-07 23:25 |

すべてがエムになる

当時、座敷童のような子(私)がバスの中で読んでいたのは

岩波文庫の『遠野物語・山の人生』でした。


今、手持ちの角川ソフィア文庫『遠野物語』は

『遠野物語拾遺』と合わせて一冊になっています。


連れが買って来た集英社文庫『遠野物語』は、

カバーイラストはホラーコミック風ですが、

『涕泣史談』や『清光館哀史』などがセレクトされています。


その中の一編『女の咲顔』は

「エミ」と「ワラヒ」の違いについて考察されています。


「笑」と書いて「ワラヒ」、「咲」と書いて「エミ」

「咲顔」と書いて「エガオ」


‥‥今シーズンのドラマで工学部のお嬢様大学生を演じている

女優さんの名前、「サキちゃん」じゃなくて「エミちゃん」は

読み方に無理があるなあ、と思っていたのですが

そうだった!柳田翁が「エミ」と読んでいたんだった!


ドラマのキャストを聞いたとき、原作に合わせて

エミちゃん髪を切ったら偉いけど必要ないぞ、と思ったら

さすがにそれはしていませんでした。



[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-11-02 22:58 |

そこの物語

十月いっぱいはハロウィーン通信ネタになるような

コワいものはないかコワいものはないかと、

そればかり探していました。


何が一番怖かったかと言えば。



十月のある日曜日、

連れが薄い文庫本を読みふけっていました。


柳田国男の『遠野物語』でした。


うわあああああああ。


‥‥どこが怖いのかわかりにくいかもしれませんが、

この組み合わせは全く想定外だったのです。


 経立(ふったち)は恐ろしきものなり。


とはいえ、

若い頃には食べられなかったものや

興味のなかった分野の本が

楽しめるようになるというのは、

年をとる醍醐味のひとつです。



 ある年何某という男、町より帰るとて乗り合い自動車に乗りて

十二、三の女の児の書を読み入るに逢へり。

何読む、と問えば柳田某の『遠野物語』なりと答ふ。


座敷童ではありません。

私です、私。




[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-11-02 21:55 |

彼岸の蝶

金色の日射しと真っ黒な影、

影は短くはなく長くなく、

建物の黒い影をつたって歩きます。


金色の日射しを受けて

金に黒の模様のアゲハチョウが

前を横切り、脇を通り、頭を掠めて

‥‥さすがに連れが気付きます。

「なんで住宅地の中にこんなにチョウがいるの?」


母親でしょう。


「え」

このあたりのお宅はもれなく一家に一本以上、

いわゆる酢蜜柑を植えていますね。

「うん。焼き魚とか鍋のときは庭でもいでくる」

その柑橘の葉がナミアゲハの子供の餌になるんです。

「ああー、卵を生みに来たのか」

これから冬を越して、春に孵ります。

「あの、春のちっちゃなアゲハ蝶ね」


公園のキバナコスモスにはモンキチョウが訪れ、

アカタテハがせわしなく舞い、

ヤマトシジミが低くちらちらします。

見慣れた蝶ばかりでも、

秋の彼岸の金色の日射しの中で

金色の花に華を添えています。


川岸に出ると、大きな夏羽がすり切れて

黒いレース状になったクロアゲハが

満開の彼岸花の上を真っ黒な影のように。


[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-09-23 21:36 | 散歩

いるよ

彼岸とはいえ、これほど急に冷え込まなくても。

でもこれなら真昼の散歩も大丈夫。


うちの前の小さな川沿いに銀行の裏を通ると、

歩いていても見過ごすくらい、

立ち止まって初めて気付くような、

ささやかな花が。


庭に生えれば抜かれるような、

名前を聞けば雑草と言われるような、

キク科の、イネ科の、ヒルガオ科の、

マメ科の、シソ科の、ツユクサ科の、

ヒユ科の、タデ科の、ユリ科の、


淡い黄色の淡い緑の淡い紅の淡い紫の。


路面から水面までの5メートルの斜面の中に、

一つ直径1センチにも満たないほどの花が、

何百と、何千と。


川沿いを川のように、

天の川の星のように。


町中の道ばたでしばし立ちつくします。

ここは花野だ。

幅5メートルで延々と続く。


この銀行の裏は大きな樹のある小さな公園の対岸で、

手入れと放置の具合が丁度良いのでした。



そういえばカワセミをしばらく見ない。


突然、鋭い声がしてオレンジ色がひらめくと、

次の瞬間には水色の光が

川面をつーっと遠ざかってゆきました。



[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-09-21 22:28 | 散歩

あらしのなかのアラビアンジャスミン

六月の夜、暗い網戸の向こうから漂うひんやりとした湿気の中に

茉莉花・アラビアンジャスミンが香ります。


八月の夕方、台風の来る直前にベランダの鉢植えを避難させていると

ゆるく支柱にまとわせた枝一面に今にも開きそうな白い蕾が。

一晩で散る茉莉花の小さな白い花が

雨ばかりの八月に再び大量の蕾をつけていたのです。


まるごとが花嫁の純白のブーケのような鉢を

部屋に取り込み、サイドテーブルに載せます。

この異様な気候条件が誘ったのでしょうか。

まさか台風の夜にいっせいに開くなんて。


穏やかならざる夜が更けるにつれ、

ホースで窓を洗うように雨が真横に打ち付け、

波飛沫やら折れた枝やら園芸用ビニールやらが空を舞う。

阿鼻叫喚の中、風圧で揺れる部屋の奥では

時折、茉莉花が深く香りました。



九月の真昼、久しぶりに青空をあおぎます。

日射しは強いけれどさらりと乾いていて、

ペットボトルのさんぴん茶を飲んだ瞬間、

その香りで思い出したのです。

沖縄ではなくて、嵐の夜を思い出すのか。



翌日になると白い花は部屋の中で雪のように残らず落ちて、

黄緑色の丸い葉の何の変哲もない鉢植えになっていました。


[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-09-14 21:41 |

打ち上げ花火に水をさす

八月初めの週末恒例、地元のお祭りと花火大会は

「悪天候のため延期」となりました。

中止ではなく延期です。

九月になって日程を短縮し、ようやく行われる事に。


いつもは市街を二日かけて練り歩く踊りも、

海沿いの施設の敷地のステージで披露するようです。

急の雨でも雷でも避難出来るビルがあるからでしょう。


かすかに聞こえて来る踊りの拍子が時折雨でとぎれつつ、

花火打ち上げの時間が近づいてくるのですが。


天気予報の画面ではこの一ヶ月、毎晩見慣れた、

「大雨」「洪水」「雷」のスリーカードが並んでいて


沛然として、とはまさにこの事、

花火開始三十分前。

防災用に増設されたスピーカーが一斉に

‥‥雨の音が強くて聞き取れませんが、

「悪天候のため□□□、悪天候のため□□□、」

えんき、か、ちゅうし、か、いずれにせよ、


向かいのショッピングモールの屋上で待っていた人達が

立体駐車場を降りて来るヘッドライトがきらきらと列になります。

豪雨は一時間でおさまりましたが、空は紫色に光り続けています。



翌日の地方紙で、延期になっていた祭りが行われ、

打ち上げ花火は悪天候で中止、と載っていました。


今年はベランダから見る花火、ないんだ。

まあ、今夜こそは晴れるでしょう。

そうしたら、お月見をしましょう。


[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-09-08 21:43 |

太陽の射さない八月

八月になってから

夜毎、轟く海鳴をきき

夜毎、唸る南風をきき

夜毎、響く雷鳴をきき

夜毎、叩く雨音をきき


二週間ぶりに日が射しました。

久しぶりに見た日の光は午後まだ早いというのに

傾く陽のオレンジ色になっていました。


切れ目のできた雲間から見上げると、

頭上にあるのはそそり立つ入道雲で


私達はずっとこんな雲の底にいたのか。


つかの間開いた雲の壁は再び塞がり、

日のささない次の一週間が再び各地に雨を落としました。


暑くない。

八月なのに。


以前、南の国の知人が

「六月が一番暑い」と言っていましたが。

六月?八月じゃなくて?

「八月は雨期だから涼しいよ」

へえ。ニホンの雨期は六月で、八月がとにかく暑いですよ。

日が射すから。


日が射さないと本当に八月は暑くないんだ。

八月最初にマーズが予言した通りの

奇妙な夏になってしまいました。

きっと去年、二年分の夏が来たのです。


更に八月最後の週もずっと傘が手放せず、

‥‥と思ったら最後の最後の一日だけ晴れた!


書き留めておきましょう。

呼吸をしていても水の中を漂うようだった、

2014年の八月。


[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-08-31 21:59 |

月がとっても青くない

 月がとってもあおいから〜♪

「月は青くないよ」
古典的昭和歌謡を聞いて、連れが不思議そうに言います。
TV画面の周囲の青い枠には、台風情報の字幕が流れ続けています。

そうですね。天高くある月は白い。
「あとはだいたい、黄色とか。赤い時もある」
地面に近かったり、空気の層に濁りがあると赤い月になります。
「青い月ってないよね」
そうですね。青いのは、月そのものではありません。


レッドカード・イエロードをありったけ横に並べたような
大雨、洪水、強風、波浪、雷、竜巻の警報・注意報に、
高潮のカードが加わりました。
「高潮まで‥‥」
よりによって明日が満月ですから。
「大潮なんだ」
それも特別に地球に近い。
「あ。スーパームーン!」


そして歩みの遅い嵐がようやく過ぎました。
通常、台風一過は晴れ渡るのですが、雲は残ったままです。
それでも夜になると風雨に洗い流された空に切れ間が出来ました。
さあ、ごらんください。

「うわあ、まぶしい!」
反射物とは思えない、白色光の照明灯を直に見るような月。
じわじわと真円に近づくにつれ威力を増していきます。
「大きいかどうかはわからないけど、いつもよりずっと明るい!」
照らし出される瓦や樹々もくっきりと浮き上がって見えます。
「たしかにこれは、スーパーだー」
いいえ。今宵の月は『エクストラ・スーパー』。
‥‥必殺技か。


ところで、聞き慣れているので聞き流していますが、
いつも地元で流れている曲の歌詞を御存知ですか。

 あーおい、つき、よの、はーまべえ、にはー♪

「えー、あれも青い月なの?」
そうではありません。
 
 青い月夜の浜辺には

「青い月夜」
これならどうですか。
「青い月夜、なら良いよ」
そうでしょう。
「月は青くないけど、月夜は青いよね」


ここまで打ち込んで、このパソコンの背景に気付きました。
旧いけれどモニタが大きいので、たまに連れも使っています。
気に入ったポストカードを何年も前に取り込んだもので、
夕暮れの空と湖面に城のシルエット。
一面の青い世界の上に、大きな白い十日の月。

 月は青くない。月夜は青い。

これだったのか。
[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-08-11 21:33 |

きゅうりの日々

夏野菜というけれど
このあたりでは本当の夏になると
夏野菜はなくなります。
日射しで茎も蔓も枯れるのです。

去年は七月早々梅雨が明けてしまってたいへんでした。
九月になって、産直市の苗を手にしながら
「今からキュウリを植えたら実るろうか」
「できるできる、植えなさいや」
と会話している婆様達がいました。
胡瓜の食べられない真夏だったのです。
私は代わりにひたすら白瓜を食べていました。

他所の土地から運ばれて来た
高価で味のしない野菜を食べるという習慣は
このあたりにはありません。

去年の仇を取るかのように、
今年の七月は毎日のように方々から
山盛りの夏野菜をいただきました。
集合住宅の入り口にまで「ご自由にお持ちください」と
紙袋いっぱいの野菜が置かれます。

去年の仇を取るかのように、
今年はキュウリがものすごく獲れたらしく、
やたらとキュウリをいただきました。

火を通す野菜はまだ、かさも減るし保存もできますが、
こんな水分たっぷりの大量のキュウリ、
日持ちもしないものをどうしろと

‥‥水分。

毎日、キュウリに果物ジュースを少し混ぜて
ミキサーでジュースにしてみます。
甘いジュースでも、塩味にして冷たいスープ風でも、
何を混ぜても失敗なし。これは良い。

すっかり毎日の習慣にしていたら、
梅雨が明けて真夏になりました。
もうもったいなくてジュースにはできない。

さらば、きゅうりジュース。
さらば、トマトソース。
さらば、七月の日よ。
[PR]
# by otenki-nekoya | 2014-07-31 21:21 |
line

日記


by otenki-nekoya
line
クリエイティビティを刺激するポータル homepage.excite